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カン・イルグォン(音楽評論家)
写真DPR IAN Instagram

社会ではしばしばタブー視される双極性障害が、アーティストにはインスピレーションの源泉になることがある。彼らは目の前の試練をあえて避けたり隠そうとしたりせず、自らが追求する芸術世界の中心部に引きずり込もうとする。その結果として生まれた素晴らしい作品を耳にしたとき、アーティストが耐えなければならない苦痛を見ていることしかできない申し訳なさと、よい作品に触れて感じる快感が同時に襲ってくる。極めて二律背反的な感情だ。国内外を股にかけて活動するDPR IANの作品が、まさにそのタイプだ。

DPR IANは、10代で診断を下された双極性障害との闘いを続け、それを理解し克服するために自分だけの方法を選んだ。自らの鬱を人格化し、別の自我を作ったのだ。そうして創造された堕天使「マイト(MITO)」は、IANの過去と現在を反映したキャラクターだ。これを下敷きにして彼は、2021年から2022年にかけて『Moodswings In This Order』に収録された連作を発表した。双極性障害によって生まれる両極の感情をモチーフに、マイトとして物語を綴ったアルバムだ。音楽と映像によって記録されるマイトの旅路の中で、精神障害は超能力さながらの非常に特別な才能として再構成される。

昨年10月にリリースしたアルバム『Dear Insanity』では、また別の分身が登場する。マイトとは正反対の「ミスター・インサニティ(Mr.Insanity)」だ。マイト以外のキャラクターが初めてストーリーの中心に立った。二人はまるで、IANが経験する双極性障害の両極を代弁しているかのようだ。ビジュアル面を見ると、マイトは痛みと悲しみが刻まれたモノクロで表現される一方、ミスター・インサニティは明るい姿が強調され、多様で鮮やかな色で表現される。IANは両者の自我を、対立すると同時に互いを投影する関係として設定した。まるでバットマンとジョーカーのように。

ストーリーとコンセプトだけではない。チェンバー・ポップ、エレクトロニカ、オルタナティブR&B、ハウス、ブリットポップといった様々なジャンルが混じり合い、オーケストラ編曲とエレクトロニック・ドロップを自由に行き交う変奏が施された多彩なプロダクションにも、IANが作品を通じて語ろうとしていることが、ありありと現れている。このように、彼の作った芸術世界は精巧かつ自由で興味深いものだ。自分の内面までさらけ出して表現するアーティストは多いものの、感嘆を引き出す作品にまで昇華させることができるケースは珍しい。

今日のIANが世界的に注目されるアーティストになったことには、ミュージックビデオ監督としての才能も影響を及ぼしている。彼は、抜きん出たシンガーソングライターであると同時にビジュアルディレクターでもある。韓国のヒップホップやR&Bシーンに新たな緊張感をもたらしたクルー「DPR」におけるポジションもビジュアルアート分野だった。2012年、K-POPグループ「C-Clown」のメンバーとしてデビューしたものの、DPR IANにとって映像は、音楽と同じほど彼の芸術世界において大きなパーセンテージを占めている。

キャリアの面でも、両分野の比重が同程度だ。IAN自身とDPRメンバーのミュージックビデオはもちろんのこと、外部プロジェクトも継続して手掛けている。「No Blueberries」、「Don't Go Insane」、「Peanut Butter & Tears」、「So I Danced」、「Limbo」といった代表曲、DPRメンバーであるホン・ダビン(a.k.a DPR LIVE)の「Jasmine」、「Yellow Cab」、「Legacy」、そしてBOBBYの「HOLUP!」(2016)、MINOの「BODY」(2016)、TAEYANGの「Wake Me Up」(2017)などが彼の作品だ。

演出の大部分が、ユニークで創造的だ。これまでIANが手掛けてきた作品のビジュアル的な完成度があまりに優れているため、有力投資家やレーベル関係者のサポートがあると予想する者が多かった。しかし、これらはすべて独立路線を歩んで成し遂げた成果だ。「Peanut Butter & Tears」のミュージックビデオひとつを取っても、このような黒幕(?)説が出てくるのも無理はない。

幼少期から成人期に転換し、現在と過去が交差し、現実と異世界がオーバーラップする感覚的な編集、ディストピアの只中にいるかのような夢のシークエンスで際立つローファイで個性あふれるCG、背景に合わせて多様に変化する優れた色彩に至るまで、実に高い没入型の経験をもたらす。ビジュアル面でのインパクトだけが際立っているわけではない。強烈で恍惚としたシークエンスの連続には、双極性障害を患う自らの裏面を理解しようとする努力が隠喩的に散りばめられている。このようにDPR IANは、視覚的な部分だけに重点を置くのではなく、音楽で綴ったストーリーを映像を通じて同様に伝えようと努力している。

そのため、彼が監督したミュージックビデオは、劇的で、短く強烈な映画さながらの作品が多い。最近公開されたIU「Shopper」のミュージックビデオもそうだ。ミュージカルのように演出したケイパー映画(Caper film)のようだ。ジャン=ピエール・ジュネ(Jean-Pierre Jeunet)、バズ・ラーマン(Baz Luhrmann)といった監督たちのスタイルが感じられるシークエンスをはじめ、色とりどりの場面が広がる中で、魔法の道具を売る謎の店を舞台に騒動が巻き起こる。IANは劇の始まりを知らせるナレーターであり、道具を盗んで脱出しようとするIUの助っ人であり、これらすべての状況の演出者だ。

DPR IANの作品世界は全方位的で、ときに前衛的だ。急速に変化するトレンドに歩調を合わせるよりも、独自の世界観でやりたいことを続ける。これは双極性障害に苛まれる自分自身を理解し、慰めようとする彼のプロジェクトでもある。その中でIANは絶えず問いを投げかける。誰がヴィランで、誰がスーパーヒーローなのか、どれがポジティブな面でどれがネガティブな面なのか? IANははっきりした答えを出そうとしない。ひょっとするとそれは、彼の作品に触れながら向き合いつづけなければならない問いなのかもしれない。そうして人々は、気づかぬうちに答えを探し求めるプロセスに参加し、IANの音楽世界に染まっていくのだ。

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