2月11日、テイラー・スウィフトは、2008年のアルバム『Fearless』を再レコーディングしたと発表した。再録アルバムの公式タイトルは『Fearless(Taylors Version)』だ。翌12日には、収録曲「Love Story( Taylor’s Version)」を公開した。『Fearless』は彼女が初めて1位になったアルバムであり、「Love Story」は2曲目の「トップ10」ヒット曲だ。そしてテイラー・スウィフトは、2006年のデビュー作『Taylor Swift』から2017年の『reputation』までの6枚のアルバムすべてを「テイラーズ・バージョン」として新たにレコーディングする予定だ。

これは、テイラー・スウィフトの初期のアルバム6枚のマスター(原盤)についての計画だ。2018年、テイラー・スウィフトはそれまでの所属レーベル、ビッグ・マシーン・レコードを離れ、ユニバーサル・ミュージックと契約をした。2019年7作目のアルバム『Lover』を発表したころ、有名マネージャー、スクーター・ブラウンの会社がビッグ・マシーンを買収したことから、テイラー・スウィフトのアルバムのマスターについて論争が表面化した。テイラー・スウィフトが自身の音楽について、完全にコントロールできる権限を望んでいたことは有名であり、実際、ユニバーサル・ミュージックと契約したすべてのアルバムのマスターは、彼女が持つこととしている。

マスターとは、ひと言で言えば録音作品に関する権利だ。それは知的財産権、すなわち創作に関する権利とは性格が異なる。あなたがある歌を作詞・作曲し、レコード会社と契約し、レコーディングしたとすると、そのレコーディングをどのように行うかとは別の問題だという意味だ。マスターの保有者は、レコーディングしたものをCDにして売り、またストリーミングで収益を得る。映画やテレビ、ゲームに使用する権利を与えることもできる。一方、「カバー」を許諾するのは、ソングライターの固有の権利だ。あなたが他の人の書いたメロディと歌詞を借りて歌を歌うとすれば、そのメロディと歌詞を書いた人にそれを許諾する権利があるのは当然なことだ。テイラー・スウィフトは、自身が発表したすべての歌のソングライティングに参加しているため、自ら「カバー・バージョン」をレコーディングする権利がある。そして新たにレコーディングされた「カバー」は、新たな「マスター」となる。それが「再録」というアイデアの出発点だ。

疑問が一つ。だとしても、既存のオリジナル・バージョンのマスターが消えるわけではないのだが?その通りだ。過去プリンスや、デフ・レパードが再録をし、新たなマスターを作ったが、レコード会社との単なる交渉のカード程度に終わったのもそのためだ。だがテイラー・スウィフトは、再録の動機からすると、とことんまで行く可能性が大きく、最もうまくいった場合、音楽市場でオリジナル・マスターに取って代わる可能性もある。ストリーミング中心に再編された市場が最大の変数だ。CDとちがってストリーミングでは、昨日まで聴いていたオリジナル・バージョンの代わりに、テイラーズ・バージョンを何の追加料金もなく聴くことができる。オリジナル・マスターを持っている側の対応も難しい。過去、所属会社を離れたアーティストに悪夢を見させた代表的な方法は、ベスト・アルバムの無断制作だった。新作発表を控えた状態でぶつければ、さらに効果的だ。だがストリーミング時代にベスト・アルバムは、さほどの力はない。一般大衆が新作より、耳に馴染んだベスト・アルバムに財布のひもを緩めるという仮定は、CDの時代にこそ可能なのだ。何よりテイラー・スウィフトの強力なファン・ベースは、彼女のメッセージに同意し、テイラーズ・バージョンを正規版と認定するだろう。テイラー・スウィフトの音楽を使いたい映画やゲーム制作者、サンプリングを望む他のアーティスト、ラジオ放送がプレッシャーを感じるのも当然だ。「Love Story( Taylor’s Version)」がオリジナルと比べて、急激な変化がない理由でもある。テイラーズ・バージョンは、裏を返せば、オリジナルと大きな差がないことによって、より大きな波及力を持つ。

ここでまた疑問が一つ。チャートや音楽賞はどうなるのか。これはリミックスやフィーチャリングに関連した基準に比べて簡単だ。歌やアルバムの再録は、オリジナルとは別個の扱いになる。したがって、今後出るすべてのテイラーズ・バージョンは、あらゆるチャート記録を新たに作るだろう。音楽賞も同じだ。テイラー・スウィフトが望みさえすれば、音楽賞に候補としてエントリーできる。もちろん再録の芸術的価値に票を得ることは別の問題だ。

マスターはレコード会社の最も重要な権利であり、音楽業界は自ずと「Love Story( Taylor’s Version)」の実績に関心を持つ。結果は励みになる。公開第1週のストリーミングは1,370万回を記録し、カントリー部門のストリーミング1位を記録した。オリジナルの「Love Story」も、1週間で340万回と普段より30%以上増加した。オリジナル・バージョンが再録の恩恵を受けるだろうという予想は、すでに出ていた。人々は自ずと、再録とオリジナルを比較するからだ。だがテイラーズ・バージョンはまだスタートに過ぎず、今後数年間見守る必要がある。すでにラジオではかなりのオンエア回数を確保している。もしテイラーズ・バージョンが、最初のマスターで市場における地位を手にすれば、テイラー・スウィフトは、ミュージシャンの権利の歴史において、新たな次元を切り開くだろう。
トリビア

音楽著作権

音楽に関する著作権(copyright)は複雑なことで悪名高い。大きく作曲の権利(composition)と原盤(マスター)権(master recording)に分けられる。作曲の権利は、メロディと歌詞を創作した人に与えられ、原盤権は、特定のレコーディング作品の所有権だ。原盤権は通常レコード会社(recording company)が管理し、そのほとんどを所有する。作曲の権利は作詞・作曲者が保有し、通常パブリッシャー(publisher)とよばれる会社が契約を通して管理する。二つの権利の構成は契約ごとにちがい、それによりCD販売、ストリーミング、公演による収益やカバー、サンプリングなど、各種の商業利用に対する許諾の権限などが決められる。
文. ソ・ソンドク(ポピュラー音楽評論家)