2023年8月21日に公開されたNetflixのドキュメンタリー『ポップスターアカデミー:KATSEYEになるまで』は、グローバル・ガールズグループKATSEYEのキャスティングをはじめ、いわゆる練習生システムとして知られる「T&D(Training & Development)」と、デビューメンバーが決定したサバイバル番組『The Debut:Dream Academy』(以下、『ドリームアカデミー』)の全プロセスを描いている。ドキュメンタリーは、練習生たちのトレーニングや宿舎生活のみならず、HYBEとゲフィン・レコード(以下「HXG」)のスタッフにまで密着取材を行い、グローバル・ガールズグループが誕生するまでの過程を濃密に描いた。当時、HXGのT&Dシニアプログラムマネージャーとしてメンバーと深い絆を築き、ドキュメンタリーの中心的な役割を果たしたミッシー・パラモ(Missy Paramo)に、撮影の裏側やT&D、KATSEYEのメンバーらについて話を聞いた。
『ポップスターアカデミー:KATSEYEになるまで』には、練習生のキャスティングや暮らし、トレーニング、『ドリームアカデミー』の全過程が描かれています。約2年間にわたるドキュメンタリー撮影の雰囲気はどうでしたか?
ミッシー・パラモ:最初は、どこへ行ってもカメラがある環境に誰もが居心地の悪さを感じていました。ドキュメンタリーの撮影チームはシネマ・ヴェリテ(すべての状況をそのまま撮影する手法)のアプローチで絶え間なく撮影を続けていました。プロジェクトは始まったばかりで、一般的なK-POPグループの制作プロセスよりも与えられた時間がはるかに短かったため、関わっていたスタッフはとても神経質になっていました。私たちも、ドキュメンタリーに何が描かれるのか確信が持てなかったので、監督のナディア・ホールグレン(Nadia Hallgren)や撮影チームをT&Dの世界に深く引き入れることは困難なものでした。しかし、時間が経つにつれて、監督とその撮影チームを信頼できるようになりました。私たちも、ドキュメンタリーが本当に心を動かすためには、練習生やスタッフがカメラの前でリラックスし、時には弱さを見せ、率直であることが必要だと納得しました。その過程で、監督が私たちの物語を忠実に描いてくれるとただただ信じる「盲信」が必要でした。監督や撮影チームがT&Dの複雑な業務だけでなく、私たちの暮らしにも入り込むことを許すプロセスだったのです。そのような困難があったにもかかわらず、撮影チームは私たち全員に驚くべき忍耐を見せてくれました。私たちの領域を尊重しながらも、非常に感動的で緊張感のある強烈な瞬間を見事に捉えていました。
アメリカでK-POPの方法論をベースにしたT&Dシステムを取り入れるのは簡単なことではなかったと思います。プログラムの基本的な構成やトレーナーのオファーにはどのような方針があったのでしょうか?
ミッシー・パラモ:プログラムの開発にあたって、アメリカの大学スポーツやオリンピックトレーニングプログラムといった似通った事例を幅広く調査しました。プログラムの基盤には、はっきりしたルールと練習生たちの正確な目標が必要だと感じました。私たちは厳格なトレーニングプログラムを企画し、練習生たちがアーティストになるためのスキル面での成長を目指すだけでなく、人間としても成長できるようにと考えました。また、アメリカ・ロサンゼルスにT&Dシステムを構築するということは、この業界の優れたトレーナーと一緒に仕事ができる機会でもありました。しかし、豊富な経験だけでなく、韓国のT&Dシステムへの理解に加え、それを独自の方法で発展させる洞察力を備えた適任者を見つけるのは難しいことでした。すべてのトレーナーは、ポップミュージック業界で有名人と何年も仕事をした経験があり、練習生たちを現代のポップアイコンのレベルに引き上げるために必要な実力、レベル、プロ意識、スター性に関する知識を伝授しました。
ドキュメンタリーの中で、練習生たちは相当の練習量をこなす過程でかなりのプレッシャーを感じます。異なる文化的背景を持った練習生たちがT&Dシステムを理解することは難しくなかったのでしょうか?
ミッシー・パラモ:私たちは、一日中練習生たちと一緒に過ごしながら信頼を築いていきました。練習生が目標を達成するために必要なこととあれば、何でも提供しました。身体的、精神的な健康のサポートを含め、休むための時間も提供しました。このような努力は、練習生たちからの信頼と献身的な努力として返ってきました。私たちは、短期間で全ての練習生が持つ潜在能力を最大まで引き出そうとしました。練習生たちが燃え尽きてしまうことなくモチベーションを保てるように、指導者の立場であるスタッフが建設的なフィードバックを与えることが重要でした。練習生たちはT&Dプログラムを心から信頼してくれ、その結果、目に見えるほど実力が向上しました。練習生たちはリスペクトと誠実さ、そして規律ある環境を作り出し、それがグローバル・ガールズグループの一員になるための重要な要素だと理解していたのです。練習生たちは、限られた自由時間さえも自主練習に費やすほど成長したいという気持ちが強くありました。毎日出席する義務はないにもかかわらず、練習室に来て練習し、練習生自らが成長の主体になっていました。こういった自主性が、練習生たちの成長と成功の決定的な要因になりました。
ドキュメンタリーの中に練習生たちがグループカウンセリングを受けるシーンが登場し、「メンタルヘルス」の問題が大きく取り上げられています。どのような背景があるのでしょうか?
ミッシー・パラモ:メンタルヘルスのケアはT&Dプログラムの大きな柱であり、常に重要に考えられてきました。今日のアメリカの若者は、メンタルヘルスが成功において大きな役割を果たすことをよく理解しており、これを無視すれば有望なキャリアが崩れる可能性があることも、自らの目で見てきました。このことを念頭に置き、練習生たちが精神的な健康を維持することを最優先にしました。希望する練習生にはメンタルヘルスの専門家との個別カウンセリングを提供し、常駐する心理学者とのグループカウンセリングセッションも行いました。アートセラピーや音楽療法など、様々な試みを通じて練習生たちに最も適した方法を模索しました。心理学のプロフェッショナルたちは、成人になったばかりの練習生たちが夢を追いながら人としても成長できるようサポートする役割を担っていました。また、練習生たちがロサンゼルスの暮らしに適応できるよう、競争の環境から一時的に離れて日常を楽しみ、スタジオの外で時間を過ごせるようにしました。こうした精神的な休息は、練習生たちをしばしロサンゼルスに住む若者の姿に戻してくれました。
その一連の過程で生まれた練習生たちの「姉妹愛」は、ドキュメンタリーの中で最も輝かしい価値だと思います。
ミッシー・パラモ:練習生たちには、「姉妹愛」に似た独特な絆があります。これは、他の人には分かり得ない経験を共有することによって育まれた感情です。彼女たちは長い時間を一緒に過ごし、その一部では同じ宿舎で生活していました。競争による緊張感にもかかわらず、それは人生を完全に変えるような経験でした。練習生たちは誰もがグループに入りたいと願いながらも、心から仲間の成功を願っていました。KATSEYEのメンバーたちが互いに感じる姉妹愛もまた、強固なものです。どんなことがあっても頼り合える姉妹の間に生まれる信頼がその基盤にあります。この深い信頼がチームを強くします。メンバーたちは心からお互いのために行動し、その信頼は揺らぎません。この真の信頼関係は、メンバー間のケミストリーを発展させるだけでなく、見る者まで惹きつけます。観客もまた、そうした素晴らしい姉妹愛を一緒に感じたいと思うはずです。
T&Dのプロセスを通じて、KATSEYEのメンバーたちの成長をずっと見守ってこられました。各メンバーがどのような成長を遂げたと考えていらっしゃいますか?
ミッシー・パラモ:KATSEYEは、新鋭アーティストとして常に自らを追い込みながら力をつけ、ファンたちとの深い絆を築いています。プログラムを通じて培われたプロ意識と自己節制は、KATSEYEの成功において重要な要素になりました。まずDANIELAは、「自己認識(self-awareness)」を育んだ点を誇りに思います。DANIELAは驚くべき才能を備えて番組に参加しましたが、エリートダンサーであり歌手、そしてパフォーマーとして進化し続け、スキルを高めるために努力を続けました。DANIELAの成熟と自己省察の能力は心から尊敬に値します。
LARAの自信は番組に強いインパクトを残しましたが、実際に周囲の練習生によい影響を与えたのは、LARAのポジティブなアティチュードでした。LARAは卓越したボーカリストですが、他のメンバーよりも遅れてプログラムに参加し、ダンスのスキルを伸ばすために人一倍努力しました。激しい練習量にもかかわらず、LARAはKATSEYEメンバーたちの原動力でした。
他のメンバーとは違い、MANONは競い合うスポーツや芸術方面の経験がなかったため、T&Dのプロセスが特に大変だったと思います。それでもMANONは、つらい瞬間も諦めることはありませんでした。MANONは一貫して自らのスキルと専門性を向上させるために努力し、KATSEYEのメンバーになることで人生のターニングポイントを迎えました。MANONはKATSEYEのパワーになる仲間であり、メンバーたちを気にかけるお姉さんとしての役割を十分に果たしてくれています。
MEGANと初めて会ったとき、彼女は内向的で目立つパフォーマーになるにはエネルギーが足りないように見えました。しかし、T&DプログラムによってMEGANは自らの真価を発揮し、徐々に自信をつけていきました。幼い頃からこの業界で働いてきたため、仕事に集中する態度と専門性という点で素晴らしい資質を持っており、それがMEGANの成長要因です。MEGANが魅力的なパフォーマー、そしてKATSEYEのメンバーとして成長する姿を見守っていると、本当に美しい旅路のように思えました。
SOPHIAは素晴らしいリーダーシップを持っています。生まれながらのリーダーですが、他のリーダーと同様、彼女にも自分なりのリーダーシップのスタイルや能力を磨く時間が必要でした。SOPHIAは成長するために疲れも感じさせず練習に励み、多くの時間を自発的に練習に費やしました。SOPHIAはKATSEYEの強さの象徴であり、厳しい状況でも冷静沈着な態度を保ち、驚くべき包容力を見せられる人物です。情熱的で、責任感があり、信頼できる存在です。このようなSOPHIAの姿が、彼女自身を夢追う女性たちが集まったグループの理想的なリーダーにするのです。
最後に、YOONCHAEがなぜあんなに若くして故郷を離れ、言葉も通じない場所で夢を追えるのか、本当に驚かされます。YOONCHAEは英語を学び、アメリカの文化に馴染むために絶えず努力を続けています。それは、YOONCHAEがファンの皆さんとより深くコミュニケーションを取りたいと願っているからです。グループ最年少メンバーですが、高い専門性を持つために真摯に取り組んでおり、アーティストとして求められる厳しい水準にも見事に適応している姿には、見るたびに感嘆させられます。
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