「前代未聞のヴァンパイア逃走事件……ヴァンパイア社会に『衝撃』」 これは、昨年12月19日にウェブメディア「VAMPIRENOW.LIVE」(以下、「VAMPIRE NOW」)に掲載された記事のタイトルだ。記事には、禁じられた計画の実行を企図して逃走したヴァンパイアたちの行方を追うため、「Code THE SIN : VANISH」という非常プロトコルが発令されたという速報が盛り込まれていた。同名のInstagramアカウントには、アナウンサーのシン・アヨンが同事件を報道した後、血を渇望するかのように目を赤く染める場面が映り、彼女もまたヴァンパイアであることを示唆する動画も投稿された。実はこの「VAMPIRE NOW」は、1月16日にリリースされたENHYPENの7thミニアルバム『THE SIN : VANISH』のプロモーションのために作られた架空のヴァンパイア・メディアだった。大々的なPRの代わりに、イースターエッグのように「発見」される形で登場した「VAMPIRE NOW」は、ヴァンパイア社会の速報と様々な情報を、現実のニュースさながらにリアルに発信しながら存在感を増していった。これは、ヴァンパイア社会のルールを破って逃亡者になった恋人たちの物語をコンテンツ全般にわたって具現化した『THE SIN : VANISH』の「コンセプトアルバム」という特殊性を反映したプロモーションでもあった。「ファンの皆さんが記事を読みながら、どこかで本当にこんなことが起きているという現在性を感じられるようにするのが最大の目的でした」とBELIFT LAB MnP1チーム担当者が語るように、ENHYPENのファンダム「ENGENE」は、「VAMPIRE NOW」とともにヴァンパイア社会を揺るがす逃走劇を追いかけはじめた。
「現実と仮想の境界を崩してリアリティを与えることに、最も力を入れました。『VAMPIRE NOW』が発信するニュースを、自分たちのそばで起こりうる話のように感じさせることで、ファンの皆さんにこの世界観をひとつの現実社会のように捉えてもらえればと考えていました」。BELIFT LABブランドデザインチーム担当者が明かした企画意図は、「VAMPIRE NOW」が発信するニュースコンテンツの細部にまで反映されている。例えば「VAMPIRE NOW」では、吸血や尖った犬歯、黒いマントといったヴァンパイアのステレオタイプが、今日のヴァンパイアの苦悩を象徴する世代間対立の原因やコンプレックスとして描写される。さらに、韓国で流行中の「ドバイもちもちクッキー」のヴァンパイア版である「ルーマニアもちもちクッキー」の情報や、ヴァンパイアのトレードマークである犬歯の縮小施術が流行しているというニュースのように、現実の生活像とヴァンパイアの世界観を緻密に結びつけたニュースもアップロードされている。ブランドデザインチーム担当者によれば、これは「古典的なヴァンパイアではなく、2020年代を生きるヴァンパイアが私たちの隣でその正体を隠して暮らしているとしたら、彼らも私たちと同じように日常的な悩みを抱えているのではないかと想像」した結果、生まれたものだという。単純に世界観を伝えるにとどまらず、現実とファンタジーをつなぐこうしたディテールは、ENHYPENのファンダム「ENGENE」を、チームの世界観はもちろんのこと、『THE SIN : VANISH』の物語にまで没入させる装置となった。
「VAMPIRE NOW」を基盤としたリアリティの拡張は、『THE SIN : VANISH』のプロモーションを特別にする軸となる。K-POPシーンで最も一般的な事前プロモーションといえば、プロモーションカレンダーで告知されたスケジュールに従い、アルバムリリースまでコンセプトフォトやティーザーなどの事前コンテンツが順次公開され、ファンダムがその流れを追っていく方式だ。しかし「VAMPIRE NOW」は、そこから一歩進んで、ファンの主体的な参加と解釈を促した。例えば、『THE SIN : VANISH』のトレーラー映像として公開されたコンセプトフィルム Chapter 1「No Way Back」は、逃避行中のヴァンパイアたち、すなわちENHYPENの視線で展開する。それに加えて「VAMPIRE NOW」は、映像に込められた意味を分析して「ヴァンパイア逃走事件の原因」を明らかにし、追撃隊の記者会見やヴァンパイア市民らの反応などを付け加え、物語のナラティブをいっそう豊かにした。ブランドデザインチーム担当者によれば、これは「プロモーションの過程で、ニュースメディアの形式を用いてアルバムのビハインドやコンテンツの中に隠された伏線や設定を見せれば、楽曲や映像などの一次コンテンツとの相乗効果が出せるだろう」という企画意図に基づくものだった。またBELIFT LAB MnP1チームは、5つの韓国メディア、2つの日本メディアとコラボレーションし、「ヴァンパイアたちの逃走劇」を共同で報じた。「ヴァンパイアたちの逃走劇」が「VAMPIRE NOW」を通じて大々的に報じられると、実在のウェブマガジンでも「VAMPIRE NOW」とともに事件の真相を共有し、その逃走劇を現実のニュースさながらに扱った。「ビルボードコリア」と共同投稿したコンテンツの「いいね」数は7万6,000以上となり、「ファストペーパー」と「ビルボードジャパン」の投稿も「いいね」数が5万件を上回った。MnP1チーム担当者は、「『VAMPIRE NOW』がファンの皆さんだけでなく、それ以外の人々の目にも触れるように、SNS上で活発に発信しているメディアとのコラボレーションを積極的に打診した」と語った。実際、ファンダム内では事前公開されたトレーラー映像とともに「VAMPIRE NOW」の関連記事を読み込むという楽しみ方が自然と形成されていった。MnP1チーム担当者は、「『VAMPIRE NOW』が仲介となって、主要なストーリーをENGENEの皆さんに親切に知らせるという役割を果たせたようだ」と述べた。このように、「VAMPIRE NOW」を中心として、ファンダムがアルバムを解釈できる情報を追加で提供するだけでなく、既存メディアとのコラボレーションを通じて没入度を高めるプロモーションのあり方は、まるでヴァンパイアの世界観が現実に入り込んできたかのような没入感を与えた。
ENGENEたちは、「VAMPIRE NOW」の記事を読むことにとどまらず、ヴァンパイアの世界観から派生したコンテンツを自発的に生産しはじめた。「VAMPIRE NOW」がオープンすると、Xにはハッシュタグ「#vampirenowtwt」とともに、「一人称ヴァンパイア視点」での投稿がシェアされはじめたのだ。ENHYPENのミュージックビデオのワンシーンはもちろん、血液パックやヴァンパイアの棺桶、鏡に映らないヴァンパイアの特性を演出に反映したOOTDまで、ENGENEの想像から生まれた無数の「自分だけのヴァンパイア」がオンライン空間を埋め尽くした。このようなENGENEによる愉快な「ヴァンパイア世界観への超没入」は、「VAMPIRE NOW」のInstagramアカウントでも続いた。ヴァンパイアのニンニクアレルギー免疫治療の記事投稿に「キムチチゲを食べるヴァンパイアだなんて」と驚いたり、高校生のヴァンパイア関連の記事に出てくるS氏の友人を名乗り、「流行語を教えても理解できない」といった具合に「VAMPIRE NOW」の信憑性を高めるコメントも登場した。それに応えるかのように、BELIFT LAB MnP1チームはこのような「超没入」コメントを取りまとめたリール動画「Reactions to Vampire Now」を公開した。このリール動画を企画したMnP1チーム担当者は、「『VAMPIRE NOW』の記事がとても多くの方に楽しんでいただいていること、そしてENHYPENがそれだけヴァンパイアの世界観に本気だということを知らせたかったんです」とその意図を説明した。ENGENEの間では「ヴァンパイアたちの逃走劇」の顛末を注視するだけでなく、ENHYPENのスケジュールに「VAMPIRE NOW」をタグ付けし、ヴァンパイアの行方を通報する流れまで生まれた。また、海外ENGENEの中には、一次コンテンツに何度も登場したヴァンパイアの指名手配ビラを印刷して撮影し、アップロードする者もいた。「このサイトを見ているENGENEの皆さん全員が、ヴァンパイア社会の一員だと思っていただければ」とブランドデザインチーム担当者が語るように、アルバムの世界観を単に消費するだけでなく、ともに完成させるENGENEの楽しみ方は、「架空のヴァンパイア」を「現実で躍動する存在」に変えた。
「VAMPIRE NOW」を中心にしたファンの楽しみ方が、ENHYPENのヴァンパイア世界観を現実へ引き寄せたのだとすれば、実在ブランドとのコラボレーションは、ヴァンパイアがまるで日常の中にいるかのようなリアリティをより強いものにした。「VAMPIRE NOW」には「ヴァンパイアの血の美学に似合うCUのスナックTop 5」という記事が掲載され、8か所のCU店舗ではヴァンパイアの爪を連想させる「コッカルコーン」や、「血のような赤い味」を誇る「いちごジャム・クリーム・ソボロパン」などのスナックをオフラインで楽しめる企画展が開かれた。また、MUSINSA(ムシンサ)も「VAMPIRE NOW」に掲載された「太陽の下を歩く『Day Walker』ヴァンパイアのためのルック with MUSINSA」で、ヴァンパイアがスタイリッシュに紫外線を避けられるレイヤードスカートやレッグウォーマーなどのファッションアイテムを提案し、MUSINSAストア弘大(ホンデ)では、アルバムとともに記事で紹介されたアイテムを展示する『THE SIN : VANISH』ポップアップストアが展開された。MnP1チーム担当者はこのコラボレーションについて、「実際に着られているブランドを通じて、ヴァンパイアをリアルに、そして自然に体験してほしかった」と述べ、「これら二社の消費者の皆さんに、『ENHYPENがヴァンパイアの世界観を表現すると言ってたけど、こんなことまで?』という印象を残すことも目標のひとつでした」というビハインドを語った。
なかでも、ENHYPENと大韓赤十字社のMOU締結および献血キャンペーンは、アルバムの世界観に対するファンダムの没入を促すだけでなく、アルバムプロモーションを社会的キャンペーンへと拡張したという点で意義深い。2026年1月11日0時、「VAMPIRE NOW」の上部バナーに表示される血液保有量の数値が一斉に下落し、それに合わせて「全国の血液保有量に『赤いアラート』……人間およびヴァンパイア社会に緊張が走る」という記事がアップロードされた。グローバルな影響力を持つK-POPグループと赤十字社が力を合わせるという「VAMPIRE NOW」のニュースが公開された後、現実でもENHYPENと大韓赤十字社のMOU締結および献血キャンペーン実施が報じられた。献血キャンペーンは、献血した場所に関係なく献血後にオンラインで応募するオンラインプロモーションと、一部の献血ルームとキャンペーン専用献血バスで行われるオフラインプロモーションに分けて実施された。オフラインプロモーションが行われた献血ルームは、『THE SIN : VANISH』のテーマに合わせてヴァンパイアの隠れ家の装いに様変わりした。献血バスもENHYPENのポスターを貼り、彼らの音楽を流すなど、献血に参加した人々が一次コンテンツを併せて楽しめるように構成された。さらに、この献血キャンペーン参加者には、「ヴァンパイア逃走者支援者連合・支援認証書」と記されたフォトカード7種、そしてヴァンパイアのためのチョコバー「ブラッド・バイト」を贈呈する特典まであった。キャンペーン参加者に、アルバム内の「ヴァンパイアたちの逃走劇」をサポートする者になったかのような連帯感を与えたのだ。これまで大韓赤十字社は、K-POPグループおよびヴァンパイアコンセプトのコンテンツとコラボレーションしたことはあったが、献血ルームや献血バスをラッピングした事例はENHYPENが初めてとなる。これについてMnP1チーム担当者は、「冬季は血液保有量が減少する傾向があり、赤十字社側には、若年層を対象に献血へのポジティブな認識を広げたいというニーズがありました。献血キャンペーンに参加したENGENEの皆さんが、楽しさと同時に、誇りややりがいを感じてくだされば嬉しいです」と付け加えた。架空のヴァンパイアメディア「VAMPIRE NOW」が、コンテンツに散りばめられた手がかりやその世界観に現実味を加えるニュースによって「没入のハブ」となり、CUやムシンサ、大韓赤十字社などの実在企業とのコラボレーションが「リアリティ」を加えたとすれば、ファンダムの参加は『THE SIN : VANISH』内の物語を「現在進行形」にした。この構造は、ヴァンパイアの世界を単なる「設定」ではなく、日常とともにある「現実」へと変貌させた。
アルバムのリリースまでに、ファンタジーと現実を結ぶプロモーション構造がもたらしたヴァンパイア世界のリアルさは、その後、ファンが手にした『THE SIN : VANISH』のアルバムパッケージを通じて、再び「現実」になる。アーカイビングボックス仕様の『THE SIN : VANISH』は、コンセプトフィルムと、「VAMPIRE NOW」では詳しく扱われなかった登場人物四者(記者、支持者、追撃隊、ヴァンパイアたちとその恋人)の所持品を、バージョン別に提示した。これによって、「VAMPIRE NOW」を中心としたプロモーションを経てアルバムを購入したENGENEは、改めて「ヴァンパイアたちの逃走劇」を見つめる四つの視線の持ち主になる。たとえば『THE SIN : VANISH』のアフターライト(AFTERLIGHT)バージョンとストーム(STORM)バージョンの中身は、「ヴァンパイアたちの逃走劇」をそれぞれ支持者と追撃隊の視点に沿って具現化する。BELIFT LABブランドデザインチーム担当者によれば、アフターライトバージョンは血液アイスバー、記事の切れ端、そしてヴァンパイアと人間の愛が窺えるメモといった構成品によって、「世界に拒まれた世紀の恋人を応援する、コレクター気質の支持者」の姿を描く一方、ストームバージョンでは、レシートやボトルキャップ、血液サンプルが入った証拠品ステッカー、そして機密文書さながらにデザインされた歌詞シートで、追撃隊の「実力ある屈強な組織さながらの威圧感」を見せる。なかでも、アフターライトバージョンの折り鶴形のメモには、『Big Girls Don’t Cry』の歌詞のように恋人を宥めるメモが入っており、血の付いた歯形をはじめとする没入度を高める細かな装置が盛り込まれていた。「ストーリーや曲の中に散りばめられた手がかりを、アルバムパッケージとウェブサイトのあちこちに緻密に隠しました。ENGENEの皆さんが、『VAMPIRE NOW』を見て、アルバムを聴いていく過程で散らばったパズルのピースを合わせながら、この事件を一緒に体験しているかのようなブランド体験をしていただきたいと思いました」。ブランドデザインチーム担当者がそう語るように、『THE SIN : VANISH』のアルバムパッケージは、アルバム内の物語を完成させるだけでなく、ファンをアルバムの物語へと引き込むブランディングを完成させる要素でもある。

「事前プロモーションは、一般的にライト層よりコア層のファンの皆さんが楽しむ傾向にありますが、『VAMPIRE NOW』を中心に、ファンの皆さんが逃亡劇の展開を一緒に追いかけながら、そこから逆に一次コンテンツに関心を持ってくれるように願っていました。『THE SIN : VANISH』のプロモーションは、様々なチャンネルで公開されるコンテンツが一貫性を持ったひとつのキャンペーンのように展開するところにポイントがあったと思います」。MnP1チーム担当者の説明は、『THE SIN : VANISH』のアルバムプロモーションが今のK-POPシーンで持つ意味を要約している。「VAMPIRE NOW」を中心に、オンラインを越えて、各ブランドとのコラボレーションと社会的なキャンペーン、実物の公式商品にまでつながった『THE SIN : VANISH』の世界観は、現実と非現実、オンラインとオフラインの境界を曖昧にし、ひとつの巨大なブランド体験へと拡張された。これまでK-POPにおいて「世界観」は、アルバム内の物語にファンをより没入させる魅力的な素材として消費されてきた。しかし、世界観を単にコンテンツ内の設定の域に留めず、アルバムプロモーション全般にわたるコラボレーションはもちろん、社会的キャンペーンにまで結びつけ、ファンも一緒になって没入できる祝祭の場を開いた『THE SIN : VANISH』の事例は、K-POPプロモーションの新たな基準を提示する。これは、ファンも物語の主体として参加できる、新たな「超没入」の公式とも言えるだろう。そしてこの「超没入」の世界は、アルバムプロモーション期間が終わった後も継続する。『THE SIN : VANISH』のプロモーション活動が終わった後も「VAMPIRE NOW」には、ヴァンパイアのための2026年冬季オリンピックに関するニュースや、バレンタインデーのプレゼント指南のように時節に合わせた記事が継続してアップデートされている。これは、ENHYPENが今後もヴァンパイアの世界を引き続き展開していくという暗示のようにも見える。MnP1チーム担当者は、インタビューの終盤、次のように語った。「ENHYPENによるヴァンパイアの物語は続きます」。その言葉通り、彼らによるヴァンパイアの世界観も、そしてそれを見せるK-POPプロモーションの進化も、今後続いていくことだろう。
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