今年7月に公開されたWeverse Magazineのインタビューの中の彼の分類法によると、ミュージシャンSUGAにはいくつかのアイデンティティがある。彼はグループBTSのメンバーSUGAでもあり、ミックステープを出すヒップホップ・アーティストAgust Dでもあり、また外部の制作活動をするプロデューサー「by SUGA」でもある。
彼は「by SUGA」として作業をする時は、「徹底して商業的な音楽」を創ると強調している。ここで言う商業的な音楽とは、成績も成績だが、作り手のエゴを依頼者の意志より優先する作業はしないという意味でもある。怪訝に思うかもしれない。BTSはアイドル・シーンでも特有の「アーティストシップ」のイメージが強いグループで、ミックステープの制作で見せた真剣さやメンバーたちの証言などから判断すると、SUGAはグループ内でも音楽的に重要な役割を任されてきたので、余計にそう思う。だがSUGAはBTS以外のミュージシャンたちとコラボする時、一人のプロデューサーとして、あるいは作曲家としてアプローチする。依頼者の要請に忠実な仕事人という姿勢だ。もちろんだからと言って、SUGAという一人の人間が彼ではない全く別の何かになるわけではないだろうが、作業をする時のそのような心細かい努力が、結果的にはSUGAにさらに多くの仕事をできるようにさせている。
忙しい活動の中でも絶えず発表される作品を聴いてみると、彼が聴いて書く音楽の幅が広いということを感じ取ることができる。特に最近の作品になるほど多様性がより際立っている。ヒップホップ・ビートメイカーとして出発して以来、彼の主力だった分野は引き続き上手くこなしつつ、いろいろと新しいものにも挑戦しているという意味だ。
SUGAが外部に初めて曲を提供したのは、2017年に発表されたSURANの「WINE(Feat. Changmo)(Prod. SUGA)」だった。彼は以前にもBTSのアルバムに「Autumn Leaves」のように、未練の残る恋の終わりを描いたR&B/ヒップホップ・ポップのトラックを収録したことがある。トレンディなドラムの上にパンニングを上手く活用して、立体感と方向感を興味深く配置し、その上に音の跳躍や落ち幅がドラマチックなトップラインを載せる特有の作り方とプロデューシングは、感傷的な歌だからと言ってひたすらゆったり進行するわけではなく、かと言って悲しい雰囲気がなくならないように、繊細に調整されていた。かえってそのような表現法が、別れを前に複雑になる感情を多重的に描き出す。それはHeizeに提供した「We don’t talk together(Feat. Giriboy)(Prod. SUGA)」や、BTSのアルバム『LOVE YOURSELF 結‘Answer’』に収録されている「Trivia 轉: Seesaw」にもつながっている。
どこかノスタルジックで寂しい感じがするオールドスクール・ヒップホップスタイルのビートも、彼の主な特技だ。2019年に作業した曲の中には、彼が幼い頃ヒップホップ歌手になる夢を見るきっかけを作った主人公、Epik Highに提供した「Eternal Sunshine」がある。眠れない深夜や明け方に聴くのに良い、過度に沈んだり弾んだりしないビートは、ブームバップの上にギターやピアノ、スクラッチのように流行に左右されないタイムレスな楽器の音がからみ、甘くほろ苦い印象を与える。もう少し遡ると、BTSの『LOVE YOURSELF 承 ‘Her’』の中の「Outro: Her」もそうだったし、最近ではAgust Dの二作目のミックステープ『D-2』の「Moonlight」もそんな感じだ。
海外の歌手に初めて提供した曲は、ホールジー(Halsey)のアルバム『Manic』に収録されている「SUGA’s Interlude」だった。ホールジーの方から依頼し実現したコラボだ。ホールジーは以前からSUGAが出した繊細な内面の自己省察の曲を印象深く聴いていたという。ドラムよりは繊細なピアノがリードしていく落ち着いた展開は、以前のアルバム『WINGS』の「First Love」の序盤に似ている。その情緒をもっと劇的に引き上げると、アルバム『MAP OF THE SOUL:7』の「Interlude: Shadow」になるのだろう。
本格的なジャンルの多様化が感じられたのは、2020年IUに提供した「eight(Prod. & Feat. SUGA of BTS)」からだった。IUの「年齢シリーズ」の三作目を飾ったこの曲は、SUGAのプロデュースで聴くことになるとは思わなかった、ギターがメインのポップロックだった。ブリッジまできちんと構成する普段の定石通りの歌謡曲の作り方からはずれ、曲の長さを3分以内と極端に短くもしている。特に、彼が好んで使う特徴と見ても良いだろう、遠くまで広がる立体感からくる儚げな感じが目立つ。一番最近に出たØMIの「You(Prod. by SUGA of BTS)」もまたその影響下にあるように聞こえる。アコースティックギターと口笛が序盤から歌のムードを決める、ドライブによく合いそうな曲だ。コロナのパンデミックが始まってからギターを新たに学び始めたと言うが、その影響なのか、最近はアコースティックギターのサウンドを積極的に使用している様子だ。
コールドプレイとの新曲は、宇宙的な雰囲気の原曲とは対照的な、海底を連想させるトロピカル・ハウススタイルにアレンジした。2017年頃フルーム(Flume)が好きでよく聴くと言っていた彼は、時が経ち、そうして自分流に作り上げたEDMサウンドを人々の前に披露した。SAMSUNGのスマホ Galaxyのプリセット曲「Over the Horizon」を、スケールの大きい物語の映画音楽のように壮大なスケールのインストゥルメンタルにアレンジしたのも印象的だった。華やかなエレキギターのソロは、デビュー当初の「Tomorrow」から絶えず貫いてきた、彼が好む音楽の傾向でもある。そのようにプロデューサーSUGAの音楽世界は、自分のカラーを大切にしながら、同時に多方面に広がっていっている。
音楽のキャリアをスタートして、彼はラッパー兼プロデューサーになる将来を夢見ていた。Big Hit Entertainmentのオーディションを受ける時もそうだったという。そうしてみると、彼は「作曲家になろうとしてアイドルになった」人だ。もちろん最初にアイドルになることを決心するには、少なからず葛藤があっただろう。だが彼が結局BTSとしてデビューしようと心を決めたのには、アイドルになる道が彼の音楽人生をより遠い所まで行かせてくれるだろうという判断が作用した。そして彼の判断が正しかったことは、BTSがこれほど多くの成果を挙げた今は、敢えて説明が必要ではないほどだ。
外部に曲を提供する彼を見ると、「作曲家になろうとしてアイドルになった」彼のパラレルワールドの人生を少し覗き見ることができる。いや、パラレルワールドと敢えて表現する必要もなく、彼は長い時間にわたって自分が夢見ていたことを徐々に実現してきた。彼がSURANに「WINE(Feat. Changmo)(Prod. SUGA)」を提供したのが2017年、BTSとしてデビューしてわずか4年のことだった。若い頃ミュージシャンになる夢を見るきっかけを作ったEpik Highとプロデューサーとして仕事もし、世界的なバンドとコラボし、リミックスのアレンジを任されたりもするなど、彼の活躍は現在進行形だ。彼はこれまで、専業の作曲家だったらすることはなかったであろう多くの活動とスケジュールをこなしてきた。ステージでは魅力的なライブやパフォーマンスを披露し、ファンたちとは親密にコミュニケーションを図り、オリジナル・コンテンツでは体を張る。特に若い頃苦労してキャリアを積みながら、自分の音楽を聴いてくれる心強いファンたちがいることを願っていた彼は、アイドル・プロデューサーとしてその夢を叶え、プロデュースするアイドルとしても、また数万人の観客の前で多くのコンサートを経験した、世界でも数少ないプロデューサーとしても愛されている。一人のSUGAの中にBTSのメンバーSUGAと、ヒップホップをするAgust Dと、プロデューサーとしての「by SUGA」が33.3%ずつ共存しているのではなく、状況によって彼は100%のアイドル、100%のヒップホップ・アーティスト、100%の専業プロデューサーになる。人生を左右するような要因が私たちをどこに連れていくのかわからなくても、好きなことを熱望し続け、その瞬間瞬間に最善を尽くしていれば、どこか意味のある場所に到達できるだろうという期待が間違っていないことを、そういう方法で成長する人間を、私たちはSUGAを通して見ている。
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