「Anyone」では、2番のサビで高音を歌いこなすVERNONさんのボーカルが新鮮に聞こえました。
VERNON:新鮮で好きなパートです。ファルセットと地声を行ったり来たりしながら、最後に高音で叫ぶパートなんですけど、SEVENTEENの歌の中で、そういうボーカル的な細かいテクニックを要するパートを僕が歌ったのは初めてです。ラップじゃなくて、ボーカルで新しいチャレンジができて楽しかったです。
一方、ラッパーとしての姿を見せるヒップホップ・チームのユニット曲「GAM3 BO1」では、この非対面の時代に、せめてゲームの中ででも会おうというメッセージが印象的でした。
VERNON: BUMZUさんがトラックを送ってくれたんですけど、ゲームのピョンピョンという効果音みたいな音がたくさん入っていて、「ゲームボーイ」というキーワードが浮かびました。僕のパートには聴く楽しさを考えて、日常的な単語をたくさん入れようと思いました。包括的な内容よりは、ぐっと刺さる単語があったら楽しいじゃないですか。特に「ビットコイン」は最近みんながよく話題にしていることですし、「NFT(Non-Fungible Token、デジタル資産の一種)」やゲーム「サイバーパンク2077」は、知っている人だけがわかるものですけど、ゲームボーイというキーワードと未来志向っぽいサウンドによく合っていると思いました。
そのようなアイテムをどうやって思いつくのですか。
VERNON:作詞とは別に興味があります。そういうトレンドを把握しておきたいと思っていますし、普段から知っておこうと努力しています。周りの人たちとあれこれ情報もやりとりしていますし。最近は家にいる時間が増えて、YouTubeをよく見ていました。投稿で上がってくるものの中でおもしろそうなものは、まず全部見ます。バラエティの『無限挑戦』もよく見ていますし。他の人の視線で世の中を改めて見られるという点で、視野を広げることができる過程だと思っています。
日常で得た情報とアイデアを記録しておいたりもしますか。
VERNON:時々考えをまとめるために、スマホのメモに簡単に書きます。メモした内容を歌詞に使ったことは一度もありません。ただ書くんです。最近書いたのは、俳優たちが激情して怒るシーンを探して集めたものです。『マイ・ブラザー』という映画を観たんですけど、みんなすごく怒っていました(笑)。『フォックスキャッチャー』で主人公が試合に負けた後、ホテルに戻って自分自身に腹を立てるシーンも観ましたし、『ファイト・クラブ』ももちろん観ました。考えてみたら僕は今まで一度もそんな風に怒ったことがありませんでした。怒りの対象が別にあるわけじゃないんですけど、そういうシーンを観ると、知らないうちに自分まで心の中で何かが解消される気がします。最初は俳優たちが役として怒る姿が興味深かったんですけど、観ているうちに短い映像を作りたいと思うようになりました。
分野やジャンルに関係なく、文化芸術全般にずいぶん関心があるようですね。
VERNON:画家の両親の影響があると思います。二人とも抽象画をたくさん描いているんですけど、母は色鮮やかで、父はさっぱりした感じです。二人の絵をイヤモニに入れたりもしました。最近は「岳敏君」(ユイ・ミンジュン、中国の現代画家)の展示を観に行ってきました。音楽も「聴く芸術」だと思います。僕の頭の中にあるすべての考えを一つ一つ全部羅列することはできないじゃないですか。抽象的な意味を持つ部分は、僕が説明するより、聴く人たちが感じられるままに感じるのがいいです。
CARATの皆さんにおすすめしたい作品がありますか。
VERNON:この頃は、Bladee & MechatokやCharli XCXの曲をよく聞いています。Dua Lipaの「Cool(Jayda G Remix.)」は、アルバムに入っている曲をリミックスしたものです。Netflixシリーズ『ラブ、デス&ロボット』のシーズン2の中の「聖夜の来客(All Throught the House)」が今ぱっと浮かびますね。クリスマスの時、子どもたちが家に入ってきたサンタクロースを隠れてこっそり見ているんですけど、それが化け物なんです。匂いをかいで、良い子だったか悪い子だったかを判別して、子どもたちが欲しいおもちゃを吐き出してプレゼントしてくれます。おもしろかったですね。
映画が本当に好きなんですね。デビュー前の2013年に、地下鉄で隣の乗客が観ていた映画を、イヤホンを分け合って一緒に観たという逸話もありますよね。
VERNON:隣からちらちら見ている視線が強く感じられて、いっそのこと一緒に観ようと思ったのでしょうか(笑)。あの頃はスマホの料金制度のデータ容量も少なかったし、地下鉄のWi-Fiがよくつながらなかった時なので、自分のスマホで映画を観るのが難しかったんです。子どもの頃から映画やドキュメンタリー、アニメなど、映像はすべて好きだったんですけど、リアリティのあるファンタジーが特に好きでした。『ハリー・ポッター』は魔法使いなのに、学校に通う学生でもあるので憧れました。『もののけ姫』は主人公も魅力的で、絶対悪と絶対的な善がないところが現実的なので好きです。スタジオジブリ特有の幻想的な雰囲気と独特な世界観が好きなんですけど、その中でも一番好きな作品です。『二ノ国』というゲームが、ジブリとコラボしているというので、今まで一度もしたことがなかったRPGにも関心を持つようになりました。
音楽の作業は最近どのように行っていますか。ドキュメンタリー『SEVENTEEN:HIT THE ROAD』で、ツアーで忙しい最中にも個人の機材を揃えて作業する姿が映っていました。
VERNON:一週間に少なくとも一度以上は作業しようと思っています。主にBUMZUさんや他の作曲家の方たちの作業室でするんですけど、時々僕一人で思いついたことがあったら、小さい部屋で簡単にすることもありますし。実はミックステープについて具体的に話し合ってはいなくて、まずアイデアが浮かんだら、形にしたいという気持ちが一番強いです。仕事だと思ったら楽にできません。人に見せることに気を使うと、自分の頭の中にちがう要因がたくさん出てくるんです。もちろん個人としての願望もありますけど、焦らないようにしています。代わりに自分のための時間をたくさん持ちました。自分が何が好きなのか、何をしたいのか、見せたい姿は何なのか悩みましたね。
2016年フォトブック『17 13 24』で、「どうせ自分は見た目がちがうんだから、好奇の目で見られるのは当然だという答えに至って、気にしませんでした」と話していましたが、その後アイデンティティについて深く悩んできたのでしょうか。
VERNON:あの頃は、世の中に理解ができないことがあまりに多いのに、一つ一つ全部知っていくことができるだろうか、後になって自然とわかるようになるんじゃないだろうかと思い、あまり深く悩みたくありませんでした。避けて通りたかったとのかもしれません。成人になってから、アイデンティティについての考えをずいぶん整理できました。「TRAUMA」はCARATの皆さんに初めてそういう姿を見せるために作った曲です。見せるのが怖い部分なので、より意味のあることだと思います。その分、心をもっとオープンにできましたから。
インタビューでファンの方々について話す時は、よく責任感を強調していますね。
VERNON:SEVENTEENはCARATなしにはありえない存在です。それに尽きます。去年ぐらいにある漫画を読んだんですけど、内容がちゃんと終わっていない状態で終了してしまったので、すごく名残惜しくて残念な気持ちだったんです。ファンの立場で経験する気持ちを、自分自身に当てはめて考えるようになりました。CARATの皆さんの大切な気持ちに対して、責任感をもっと持たなくちゃって。今の目標は、SEVENTEENがより良い成績を上げることです。
「ROCKET」の「Finally I realize All along love was by my side」という歌詞が思い出されますね。
VERNON:最近知り合いの先輩がチャットで、映画『ミナリ』に出てくる男の子の台詞をまねする甥っ子の映像を見せてくれました。わあ、かわいいと思ったんですけど、なんとBUMZUさんがその音声をサンプリングして歌を作ったんです。そのトラックに合わせて踊る甥っ子の姿も一緒に見て(笑)。小さなことでも幸せだと思えることが大事だということを、ささいな日常のできごとで毎回改めて感じます。そのためには、自分が何が好きで、どういう人間なのかを知ることが必要です。
自ら気づいたアイデンティティについて話していただけますか。
VERNON:Diverse(多様性のある)な人。偏見がないというのもありますし、そのためにいつも意識して、努力しています。子どもの頃からそういう教育を受けてきたんですけど、特別なきっかけや事件があったというよりは、ただ日常的にさまざまな方面で会話をしてきました。そして淡泊な人です。人為的なことより、自然なことを追求する淡泊さと言えばいいでしょうか。
他人に見られる職業柄、淡泊さを維持することは容易くないように思いますが。
VERNON:難しいです。だからもっと現実直視と自己客観化が必要です。望むことと、望む通りばかりにはいかない現実を、そのまま受け入れる必要もありますし、自分の願望が自分自身より優先されないように、警戒しなければなりません。僕は自分のすね毛とかをそのままにしたいんですけど、事務所からハーフパンツをはく時ワックスが必要だと言われたら、意見に従います。未だに両者の間で妥協点を探しています。
率直ですね(笑)。以前のインタビューでも、一部の質問に他の言葉は言わずに、「秘密」と直球で答えていました。
VERNON:普段しょっちゅう表に出る職業なので、自分らしさを死守しようとするところがあるみたいです。だからといって適当に言いつくろったら、僕じゃない人を紹介するのと同じじゃないですか。それは嫌です。嘘で「Taking Advantage(利益のために騙すこと)」をしたくはないんです。騙されたい人なんていませんよね。嘘が必要な時もあるでしょうけど、しないで済むのなら、しない方がいいと思っています。
『GOING SEVENTEEN 2020』 の「カーニバル」編で、SEUNGKWANさんとWONWOOさんがVERNONさんに、「強いメンタルが本当に大きな武器」、「その武器を持っていてくれてありがとう」と言っていました。
VERNON:アイデンティティを確立してからは、自信が人一倍つきました。それがメンバーたちにとって気持ちの上で役に立っているのかな。実は特別にしたことはないんです。誰かが疲れていたら、「そうだね…(トントンと肩を叩いて)」と言うぐらいです。つらい思いをする時間が必要だと思うので、無理矢理気分を上げるのは好きじゃありません。中学校を中退して、SEVENTEENの中で社会化していきながら、メンバーたちにずいぶんサポートしてもらいました。これからは僕がポジティブな影響を与えられたら嬉しいですね。Weverseでメンバーたちに残す書き込みが、僕だけの愛情表現だとしましょう(笑)。
「平和主義者」が武器を持ったわけは何でしょうか。ニュースを見て、みんなが譲り合って生きればいいのに、なぜ戦うのかわからないと非難したことがあったそうですね。
VERNON:変わらず平和、平等を望んでいますけど、今はなんでそうできないのかもわかります。だから僕だけでもちゃんとしようと思っています。まず僕と僕の周りを大事にしようと。僕が憧れるアーティストたちは自分に対して誠実に見えますし、当然ながら作品も良いです。そうするためには、ずっと自己省察、自己客観化、現実直視を一生懸命しなければならないと思います。そして好きなことに対して、まっすぐに向き合えなければなりません。
デビュー当時、一番の願いに「みんなの幸せ」を挙げていましたが、現実直視と自己客観化を経てきた今はどうですか。
VERNON:今もみんなの幸せを願っています。幸せになれない、避けられない状況におかれた方たちもいると思いますが、それでも願うことはできますから。願うことはできますよね
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