Credit
文. イ・イェジン
デザイン. MAVIN(@os.mavin)
ビジュアルディレクター. チョン・ユリム

「僕たちの世代には高速道路で聴くような釣りソングがないじゃないですか。特に最近は、重い話ばかり交わされがちな雰囲気なので、軽く楽しい感じの曲を作ってみたらどうかなと思いました」。

 

BTSのJINが「SUPER TUNA」を作ってみようと思い立ったのは、単純な理由からだった。過去に『In the SOOP BTS ver.』で「釣りソング」を作りたいと話した彼は、釣りから感じる楽しさを表した歌をいっそのこと釣りをしながら作ろうと思った。「釣りソングを作りたい気持ちもありましたが、実はBUMZUさんと釣りに行きたい口実でもありました。事務所に、BUMZUさんと釣りをしながらいいコンテンツが作れそうだという意見を出して行くことになりました」。そうしてJINは、彼の釣り仲間になったプロデューサーのBUMZUと大まかな構想を予め練っておいた状態で釣り場を訪れ、実際に釣りの最中に浮かんだアイデアを交換しながら「SUPER TUNA」の具体的な輪郭を整えた。その過程でたった5分でメロディを決めたりもした。BUMZUが「海の上の船で魚を釣りながら曲作りをしたのは、生まれて初めてでした」と話すほど、独特な作業方式だった。

 

このような作業方式は、「SUPER TUNA」が二人で一緒に共有する楽しさから始まったがゆえに可能だった。「『SUPER TUNA』というタイトルを心の中で決めておいた状態だったんですが、僕たちが着いた海ではマグロが釣れないということを後から知りました」と、釣り当時の予想外だった状況について説明したBUMZUは、続いて「心配に満ちた状態で釣りをしていたら、大きなタラと一緒にいろんな魚が釣れて、『どんな魚だっていいじゃないか』という気持ちになりました」と話す。その愉快な気持ちのおかげなのか、小さな奇跡も起きた。「僕が冗談で『JINさんは宇宙的大スターだからマグロが釣れるかもしれないよ』と言って、JINさんが笑いながら釣り竿を投げたら、本当にマグロが釣れたんです。釣りのプロの方を含め現場にいた全員が驚きましたね。その後、『マグロも釣れたんだから、サメにも会えるんじゃない?』と言ったら、なんと子ザメが来て周辺を回っていったんです。鳥肌が立って、その瞬間JINさんから後光が差しているように見えました。ハハ」。


JINはBTSの公演の終盤にはいつもファンの笑いを誘う多種多様なイベントをしてくれる。時には髪の毛をリンゴの形に結んだり、大きなリボンをつけたりするなど、毎回新しい姿でARMYを楽しませてくれるJINのイベントは、今やBTSの公演のシグネチャーのうち一つとなった。同様に「SUPER TUNA」には、スタジアムで公演を行い、アメリカン・ミュージック・アワードで大賞に当たる「最優秀アーティスト賞(Artist of the year)」を受賞する「宇宙的大スター」でありながらも、マグロを釣りながら曲を作るという独特な方式で幸せを表現できるJINの性格がそのまま反映されている。そしてJINは、自身のその感情を大切な人たちと一緒に共有したいと思った。「この曲を聴きながらARMYが僕を見て思う存分に笑って、楽しんで、遊んでほしいと思ったんですが、結果的に『ARMYに喜んでもらえたからよかった』という気持ちです。喜んで、楽しんでくださるのを見て僕も楽しかったです。満足しました」。JINはトロットスタイルを活かした「SUPER TUNA」の愉快さにふさわしい活気あふれる雰囲気を曲に込めるべく、レコーディング現場にマグロの刺身とトックリイチゴ酒を用意した上に、レコーディング当日は初対面で気まずい思いのスタッフをまとめ上げ、力強い「合唱」のレコーディングを率いた。「こんなレコーディングの光景は初めて経験しました」。BUMZUは「コーラス・レコーディングの時、JINさんがスタッフのエネルギーを高めようとディレクションするのを見て、本当にたくさん笑いましたね。情熱あふれる指揮で、最後には『皆さん、今回のテイクがいい出来になれば、即帰れますよ!』と言ったら、スタッフの方々の声がとても力強く、音程も正確になったんです」という裏話を明かし、非常に楽しい時間だったという感想を述べた。二人が一緒に作業する間、最も多く話した言葉は「楽しくやろう」、「幸せでいよう」であり、「SUPER TUNA」の振り付け動画は、曲の楽しさにハマったスタッフの提案によって作られた。HYBE 360 クリエイティブ・スタジオのパン・ウジョンSPは、「最初はV LIVEの配信で軽く振り付けを踊りながら『SUPER TUNA』を公開する程度で計画しましたが、すっと流されるように踊って忘れられてしまうにはもったいないと思って、JINさんに振り付け動画の撮影について意見を伺ったら、快く受けてくださって動画撮影ができた」と話す。「スタッフの方々のほうがもっと面白がってくださいました。V LIVEの配信で飾るリトルマーメイドのバルーンまで用意したり、とても楽しそうにあれこれ提案してくださるのを僕が断るわけにはいきませんでした。実はそれが仕事において一番重要なことだと思います。面白く、楽しい環境でなければならないこと」。JINの話のように、「SUPER TUNA」にはBTSとして生きながらも、日常の楽しさを大切にする彼の生き方が随所に滲んでいる。
  • ©️ BIGHIT MUSIC

彼の思いが込められた愉快なイベントであり、プレゼントでもある「SUPER TUNA」は2021年12月4日、BTSのコンサート「BTS PERMISSION TO DANCE ON STAGE - LA」が終わった後、JINの誕生日を迎えて行われた誕生日記念V LIVEの生配信で初めて公開された。JINはV LIVEで曲の制作過程について照れくさそうに長く説明を並べたが、予想していなかった曲の登場に対するファンの反応はそれこそ爆発的なもので、「SUPER TUNA」は公開と同時に熱い反響を呼んだ。正式発売されていない曲にもかかわらず、全世界のYouTubeミュージックトレンディングで16週連続第1位、11週連続ビルボート・ホットトレンディングソングのチャートインを記録し、それに「SUPER TUNA」の振り付け動画にまつわるパロディやダンス・チャレンジが全世界のSNSやオンライン動画プラットフォームに拡散された。代表的なショートフォーム・ビデオ・プラットフォームであるTikTokで「supertuna」というハッシュタグの累積再生回数が3億2,000万回(2月26日基準)を上回るなど、韓国内外の主要ニュースやメディアでは「SUPER TUNA」の人気ぶりとチャレンジ現象を取り上げるほどだった。

 

「首を傾げました。僕はただ面白いものが好きなファンが『こんな歌もあるんだ』と適度に楽しんでくれる反応を想定していたんですが、思いのほか歌が大人気になるのを見て非常に戸惑い、驚きました」。JINは「SUPER TUNA」の発表翌日、Weverseでファンに向けてチャレンジを止めるよう呼びかけていた。「正直、少し恥ずかしかったんです。BTSとしては常に完成度の高い音楽だけを出してきたのに対して、本当にラフなコンテンツだったので、うちのARMYだけに知ってほしいという思いを持っていました。僕が思うに、ARMYが「この奇怪なものを自分だけ聴くわけにはいかない」という気持ちで拡散させることに面白さを感じ、楽しんでくださるような気がしました。それで諦めました(笑)。ARMYの『私たちにはダンスを踊る権利がある。Permission to Dance』という投稿を見て、『そうか、そうする権利はあるよな…』と思って受け入れました」。

 

しかし、JINがWeverseで「SUPER TUNA」について「悩みはしたけれど、何も考えずただ楽しむために作ったコンテンツ」と表現したように、楽しさだけを込めた曲を完成させる過程は軽いだけのものではなかった。BUMZUの話によると、全般的に曲に大したテクニックが入っていないにもかかわらず、遊び心を加えた「B級感性」を溶け込ませながらトロットジャンルの歌を作ることは、また違う悩みや試行錯誤を経験させられることだった。「様々な感じを混ぜたハイブリッドさが大事でした。サウンド的にはソ・ユジン先輩の『ParaPara Queen』の感性を参考にして作りましたし、JINさんとアイデアを交換しながら『SUPER TUNA』ならではのディテールを作っていきました。結果的に『SUPER TUNA』のジャンルは、『オルタナティブ・EDM・トロット』ではないかと思います」。このような一風変わったスタイルの曲を消化するために、JINは従来とは違う発声を使って新しい感覚で曲にアプローチした。「例えば、『ピチピチ』のパートを歌う時、BTSのスタイルなら『ピチ~』になったはずですが、『SUPER TUNA』では『ピィッチ!』と渋い感じを出すようにしました。そこだけで50回は歌ったと思います」。JINの話から感じられるように「SUPER TUNA」を完成させる過程には、楽しい日常を追い求めるだけでなく、BTSとしてのJINの持つプロフェッショナルな姿勢が伴われた。

 

各種チャレンジなどで大きな話題となった「SUPER TUNA」の振り付けができ上がる過程も同様だった。「SUPER TUNA」の振り付けを制作したパフォーマンス・ディレクターのソン・ソンドクによると、JINは「誰でも真似できるほど簡単で面白い振り付け」を求めたが、彼はJINが考える「単純」の基準を理解するまで何度か振り付けを修正しなければならなかった。「僕からすると十分簡単な振り付けだったんですが、もっと簡単でなければならないと言われました。JINのフィードバックどおりに省いて、また省いて、ここまで省いていいかと思えるほどバッサリ省いて、やっととても気に入ったというメッセージが届きました」。「SUPER TUNA」のアイデアは即興的で、制作過程は遊びのようだったが、その楽しさを直観的に伝える振り付けは、きめ細かな検討と「とにかく簡単であるべき」というはっきりとした目標によって完成できた。その結果、パフォーマンス・ディレクターのソン・ソンドクは「SUPER TUNA」の今の振り付けについて、「専門家の目から見ると簡単な動作でも一般の人々には難しく感じられる場合がありますが、とても簡単だった動作が『SUPER TUNA』をより多くの人たちに楽しんでもらえるようにアクセシビリティを高めてくれたと思います」と評価した。

 

実際に「SUPER TUNA」は公開当初、ファンダムのARMYが自主的に行ったチャレンジやパロディなどから話題になり始めたが、その後は全世界の子供たちの反応がチャレンジの新しい風を巻き起こした。各種コミュニティやSNSでは「SUPER TUNA」の振り付け動画に釘付けになって取り憑かれたようにJINの動きを真似し、歌を「合唱」する子供たちの姿を撮った動画が広がるようになり、その雰囲気を引き継いで韓国で幼児童の「3大人気者」と呼ばれるピンクフォン、ポロロ、ココモンをはじめとする人気キャラクターが「SUPER TUNA」のダンスカバーチャレンジに参加するなど、意図せずキッズポップに位置付けられる流れとなった。それだけでなく、動画プラットフォームの活用に慣れた特定の世代や集団を中心とした流行を超え、冷凍マグロ加工工場や遠洋漁船の漁師などの関連業界従事者や自治体のマスコット、韓国海洋水産部といった国家機関までチャレンジに参加するなど、JINが「SUPER TUNA」を思い浮かべた時のその感情どおりに、多くの人たちが「SUPER TUNA」を通じて日常の楽しい瞬間を満喫できた。BTSほどの影響力を持つ人が楽しさを発信しようと試みた結果として起こったマグロ・パーティーだった。

JINは同チャレンジ現象を起こすことに決定的な役割をした「SUPER TUNA」の振り付け動画について、「何とか振り付けを覚えた後、ただ撮影が終わったら遊園地に行くんだとウキウキした気持ちで撮っただけなので、こんなに喜んでいただいていいのかなと思います」と話した。しかし、その過程をともにしたスタッフは「多忙なコンサート日程の合間を縫って振り付けを練習し、撮影が終わった後も振り付け動画のグラフィックの修正事項などを細かくチェックし、フィードバックする」JINの丹念なところに触れる。「SUPER TUNA」にはパフォーマンス・ディレクターのソン・ソンドクが「どんな状況に置かれ、どんな役割を任されようと、自分が何をすべきか明確に知っていて黙々と動く人」と語るJINの淡白な生き方が表れており、その成果物は再びJINに人生に対するちょっとした学びを与える。「仕事をしていると、どうしても成績といった重視すべきことがついてくるものなので、僕の好きだったことでも結局は仕事になってしまいますが、そういう仕事も僕が面白く楽しくやっていこうとすれば、違う感じになれるということを『SUPER TUNA』を通じて経験しました」。JINが前の誕生日に発表し、自身の内面の告白を込めた「Abyss」と「SUPER TUNA」は、どちらも彼が日常で覚えた感情を彼なりの方式で作りながら、まとめ、表す過程だった。そして彼は、自身の感情や経験をファンの最も受け入れやすい方式で共有した。「Abyss」に続いて「SUPER TUNA」を一緒に手掛けたBUMZUは、JINについて「音楽的に自らを表現したいという欲求が非常に強く、ファンへの思いがそもそも体に染みついている人だと感じました。作業のひと段階が終わる度に、会話の締めくくりはいつもファンに関する話だったと記憶しています」と話す。影響力を持つ一人の人間が少し恥じらいながら自分の悲しみも喜びもファンと一緒に分かち合う。その過程でファンだけでなく、多くのひとたちが自分の日常を元気づけるイベントを経験するようにもなる。BTSのメンバーであると同時に、釣りをしながら釣りソングを本気で作ってみようと思い立つJINだけにできることだ。もちろん、彼はこの全てについてこう話すだけだが。

 

「大層なことではありません。ファンの方々に喜んでもらえそうだったら、まずやってみるだけです」。