NFL(National Football League)の決勝戦「スーパーボウル(Super Bowl)」は、おそらく最も多くの音楽ファンが待ち望んでいるスポーツイベントだろう。それは、ハーフタイムショーがあるからだ。毎年、レジェンド・アーティストや象徴的な活動を展開したスーパースターにオファーがかかる。そして、彼らの豪華絢爛なステージは各界からの注目の的になる。2024年の今年、「第58回アップルミュージック・スーパーボウルLVIII ハーフタイムショー」のヘッドライナーになったのは、アッシャー(Usher)だ。先日、トレイラーも公開された。アッシャーや数多くのファンをはじめ、レブロン・ジェームズ(LeBron James)、J・バルヴィン(J Balvin)、JUNG KOOKといったセレブリティの姿が盛り込まれ、30年に及ぶキャリアが1分以内に凝縮された。
流行と好みが日々移り変わるポップミュージック界で、アッシャーほど時代の流れに影響を受けないアーティストも珍しい。もちろん、一時の人気に酔うことなく旺盛な活動を展開し、スーパースターという称号を維持してきた人物は少なくない。しかしアッシャーは、それよりさらに特別だ。彼の全盛期を共に生きた中壮年ファンが集う思い出のディナーショーと、最新の音楽を楽しむ青年ファンでいっぱいのクラブ公演、そのどちらにも自然に馴染んでいる。それゆえ、クランク(Crunk)サウンドに合わせて強烈なダンスと歌唱を披露した「Yeah!」時代のアッシャーと、先日BTSのJUNG KOOKとコラボレーションした「Standing Next to You」のアッシャーとの間に、時間的な間隙はなかなか感じられない。しかも、「Yeah!」が発表されたとき、彼はすでにデビュー10周年を迎えていた。彼は明らかに、時間の影響圏から遠く離れたところにいるアーティストだ。
アッシャーは若くしてスターダムにのし上がった。プロデューサーのゼイトーヴェン(Zaytoven)との合作アルバム『“A”(2018)』と今年2月にリリースのアルバム『Coming Home』の間が比較的長く空いたことを除けば、依然として音楽シーンのメインストリームに立ち続けている。それゆえ、アッシャーの名が刻まれたタイミングは人によって異なるだろう。ある者は「Nice & Slow」や「You Make Me Wanna…」のように粘度の高いスロージャムとヒップホップソウルを歌った1990年代のラフェイスレコード(Laface)時代を、ある者はクランク・アンド・ビー(Crunk&B)トラックの「Yeah!」で人気がピークに達した2000年代の『Confessions』時代を、いわゆるMZ世代ならJUNG KOOKとのコラボレーションを披露した現在を挙げるだろう。
それだけに、ハーフタイムショーで見たいパフォーマンスも様々なはずだ。彼の代表曲をすべて聴けるならそれに越したことはないが、与えられた時間は約13分だ。アッシャーのようにマルチプラチナやヒットシングルを多く持っているアーティストなら(「Billboard HOT 100」の1位だけで9曲もある!)、最も重要な曲のみで構成してもギリギリのランニングタイムだ。では、「最も重要な」曲にはどういった曲が含まれるだろうか? アメリカ現地メディアが行うように、セットリストの予想はこの歴史的なステージを待ちながら楽しめる大きな余興の一つだ。
ひとまず、「Yeah!」が入ることは自明だろう。アトランタ出身のプロデューサーでラッパーのリル・ジョン(Lil Jon)が作ったこの曲は、エネルギーに満ちて威嚇的な南部のクランクと、洗練されたメインストリームR&Bが融合した初めての成果だった。言い換えれば、「クランク・アンド・ビー(crunk&B)」というジャンルの始まりだった。徹底したクラブ志向で、ヒップホップと融合しているが従来のヒップホップソウルとは全く違うベクトルを持つ、アッシャーを代表するナンバーだ。それに加えて2000年代のR&Bを代表する曲でもある。そのため、ハーフタイムショーの幕を開ける可能性もあれば、フィナーレを飾る可能性もある曲だ。
次に有力なのは「Love in This Club (Feat. Young Jeezy)」だ。プロデューサーのポロウ・ダ・ドン(Polow da Don)がラスベガスに滞在していた期間にインスピレーションを受けて制作した曲で、ムードとリリックのすべてが、砂漠の上に建てられた豪華絢爛な都市の感覚をたたえている。特に、ほのかに広がるシンセサイザーの音色がその核心だ。大規模公演で聴けるなら素晴らしい光景が広がるはずだ。シンセサウンドの上に展開するクールなボーカルも、どれほど素晴らしいだろうかと期待が高まる。まるで「ハーフタイムショー」のために作った曲のようだ。
「OMG」も外せない1曲だ。ブラック・アイド・ピーズ(Black Eyed Peas)のウィル・アイ・アム(will.i.am)が制作およびフィーチャリング参加したこの曲は、ダンスポップ、エレクトロポップ、R&Bが混ざりあったミッドテンポ・ナンバーだ。何より、2010年代に入ってエレクトロニック・ダンスを積極的に取り入れはじめたアッシャーの音楽的転換を象徴するナンバーだ。アリシア・キーズ(Alicia Keys)とコラボレーションした「My Boo」も有力候補だ。2ndアルバム『My Way』(1997)で初めて息を合わせたジャーメイン・デュプリ(Jermaine Dupri)特有のねっとりしたスローなグルーブが光る1曲だ。メロディーは魅惑的で、デュオのボーカルは甘い。プロダクションの面で『Confessions』の「Yeah!」と正反対の地点にある曲なので、いっそう興味深い。もしセットリストに入っていたら、アリシア・キーズのサプライズ登場もありえるだろう。
一方では、初期の軌跡を振り返るステージにも期待したいところだ。膨大なキャリアを誇る他のヘッドライナーがそうだったように。「You Make Me Wanna…」、「Think of You」、「U Got It Bad」、「U Remind Me」などの曲がメドレーで続くなら、より感動的なショーになるだろう。最後に、「ハーフタイムショー」の数日前にリリースされるアルバム『Coming Home』の新曲がある。サマー・ウォーカー(Summer Walker)とトゥエンティ・ワン・サベージ(21 Savage)がフィーチャリング参加した「Good Good(Explicit)」、映画『カラーパープル』(2023)サウンドトラックにも収録された「Risk It All」、そしてJUNG KOOKとコラボレーションした「Standing Next to You (USHER Remix)」など、先行リリースされた曲の中で一部がセットリスト入りするだろうと予想する。
アッシャーは、プレスリリースを通じて「ハーフタイムショー」のステージに立つことになった感想を次のように表現した。
「バケットリストにあった“スーパーボウルでのパフォーマンス”を達成できるなんて、一生に一度の光栄です。世界中に、これまで見たことのないステージを早く届けたいです。ファンの皆さん、そしてこのような機会を作ってくれたすべての方々に感謝します」
この瞬間を長く待ってきた感極まる思いが伝わってくる。また、「これまで見たことのないステージ」に関しては、トレイラーから若干のヒントを得ることができる。トレイラー映像に挿入された「Yeah!」は、ダイナミックなマーチングバンドと弦楽合奏の組み合わせで新たな編曲が施されている。他の曲にもライブ編曲が加わる可能性がある。ステージ構成と共に、今回のショーで最も期待される部分だ。
確かな音楽的遺産を持つ巨匠のために設けられた場所、世界で最も偉大なステージの一つ。そこにR&B界の巨人が立つ。30年を経て完成した、たった一度のパフォーマンスのために(One performance, 30 years in the making/注:トレーラー映像の最後に浮かぶスローガン)。
“It’s an honor of a lifetime to finally check a Super Bowl performance off my bucket list. I can’t wait to bring the world a show unlike anything else they’ve seen from me before. Thank you to the fans and everyone who made this opportunity happen. I’ll see you real soon.”
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