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文. カン・ミョンソク
インタビュー. カン・ミョンソク
写真. Channel Fullmoon

2007年8月5日、KBS『1泊2日』がスタートした。その時から現在まで、韓国のバラエティ番組は当時の『1泊2日』の演出家ナ・ヨンソクPDの時代だと言っても過言ではない。『1泊2日』やtvN『花よりおじいさん』、『新西遊記』、『ユン食堂』を経て最近の『ピョンピョン地球娯楽室』に至るまで、彼の歴史は韓国のバラエティ番組の歴史と重なる。そして2023年5月26日、彼は自身が所属する制作会社エッグイズカミングのYouTubeチャンネル『チャンネル十五夜』で、長い付き合いの仕事仲間の構成作家キム・デジュとともにYouTubeのライブストリーミングをスタートした。YouTuberチムチャクメンにYouTubeについて学んできたと言って。聞かないわけにはいかなかった。最高のテレビバラエティ番組の演出家がYouTuberになった理由を。そして過去も最高だったし、現在も最高の人が夢見る未来を。

​YouTubeチャンネル『チムチャクメン』に出演して、YouTubeのノウハウを学ぶと言っていたと思ったら、すぐにYouTubeチャンネル『チャンネル十五夜』で自らライブ放送をしていました。

ナ・ヨンソク:チムチャクメンさんと「絵描き兄弟」をしながら聞きました。「YouTubeはどういうふうにやっているんですか」と。チムチャクメンさんの番組でどのようにやっているのかを見なければと思いました。直接見なければ納得できないと思ったので。個人のYouTube番組について「あれをなぜ観るんだろう? 芸能人が出るわけでもないのに、あれを一体なぜ観るんだ?」と思っていたんですが、チムチャクメンという人が自分の番組を通して成長するのが見えたんです。それで『チムチャクメン』に出て、頭でばかり考えていたことを直接見ながら、「こうやってもいいんだな」ということを確認しました。放送して帰ってくるや否やチムチャクメンさんに、ライブルームのセッティングをしている方の電話番号をくださいと言って、もらいました。どんなライブをするかもわからずに、その方にお願いしました。「2日以内にセッティングしてもらえるでしょうか。私たち、3日後にはライブをしなければならないんです」と言って。

 

ライブ放送を変化の中心に置いた理由は何だったのでしょうか。

ナ・ヨンソク:YouTubeを、『チャンネル十五夜』チャンネルを変えなければならないと思いました。どうなるかわかりませんが、変えなければ答えはありませんから。私たちはYouTubeをやっても、『クァクチューブ』(クァク氏が世界を旅して回り料理探訪をする番組)のようにはできないんです。あの方たちは本人が出演者であり制作者ですが、私たちは自ら出演しないじゃないですか。『チャンネル十五夜』も初めは『新西遊記』のメンバーたちを呼んで、一人ずつ軽い番組を作りながら新たな試みをしてみようと始めたんですが、いくら軽くしようとしても、芸能人が出演したら軽くはできないんです。それでなぜそうなのかと考えていて、ある瞬間感じたんです。今私たちがYouTubeでやっていることは、実はテレビでやっていることとそれほど変わらないと。

 

考えてみるとYouTube的な演出は『新西遊記』の時からやっていて、今はYouTuberの特性を把握しようとしているように思います。

ナ・ヨンソク:そうです。それがYouTubeをやって何年か経ってやっとわかったんです。どこのYouTuberが他の人を出演させてやりますか。自分が自らやらなくちゃ。口で「これはYouTubeだよ。テレビとちがうようにやってるよ」と言うだけで、実際は変わらなかったんです。

 

なぜそうしなければならないんでしょうか。

ナ・ヨンソク:今までは出演者という太陽がいると、私たちは地球の隣の月のような存在でした。でも今は私たちが太陽にならなければならないと思います。その関係を逆転しなければ、YouTubeをする理由がないと思いました。YouTubeを通して私たちのこの会社、エッグイズカミングがどんなところで、その中にいる人というだけでも、業界ではきわめてプロフェッショナルな集団だということを見せたいと思ったんです。それでいてスタッフ一人一人は本当におもしろい人だということを見せたいです。そしてそれが、私たちが制作する番組を通して「(YouTubeに)出ていた人間がこんなことを成し遂げました」というように繋がることを望んでいます。

​エッグイズカミングのスタッフたちの運動会を押し進めて、コンテンツにした理由でしょうか。視聴者の目に留まる可能性を蒔いておかなければならないので。

ナ・ヨンソク:そうですね。チムチャクメンさんと放送をしている時、運動会は撮らないと言ったんです。撮影するとなったら、みんなとても嫌がるので。でも『チムチャクメン』に出て、『チャンネル十五夜』のライブをしてみたら、反応が来たんです。それで真剣に話をしました。これは撮らなければと。

 

本当にYouTube的な展開じゃないですか。Weverseにいるアイドルたちがファンたちと会話をしていて、話題になったらコンテンツを作ったりもするのと似ているように見えます。運動会でバドミントンが上手なことで注目された方のように、視聴者の目を引く人も出てきますし。

ナ・ヨンソク:今おっしゃったまさにそのルートを望んでいます。運動会をやったら、最近の方たちは自分から見つけてくれます。たくさんの人たちが出ていても、誰に目が行くというのがはっきりあって、それを親切にコメントで教えてくれます。それがすなわち「次はこの人を見せて」とか、「次にその話を絶対やって」ということなんです。

 

そうするために自らライブ放送にも出て、運動会を押し進めたりもするのですね。チムチャクメンさんの言葉のように、大衆の前で「綱渡り」をするわけで。

ナ・ヨンソク:私のような人は言ってみれば既に顔を知られた状態なので、それを最も有効なやり方で使うことを考えました。私を「てこ」にして、他の後輩スタープレイヤーたちを目立たせるんです。彼らがうまくやれば、当然私にもどんな形にしろ返ってきます。「やっぱりナ・ヨンソクが育てた人たちはちがうね」、「あの時ライブ放送に出て冗談で言っていたことが、本当に番組になったんだね。あの集団は本当にちがう」、そういうイメージを私も一緒に持てますから。ハイリスクなのは確かですが、私はそれがかなり良いリターンだと思っています。ただ他の制作スタッフたちは裏方で作るのに慣れていて、自分が出演してうまくいくという確信はどうしても持てません。私だって強烈な確信があったら、すべてストップして最初からやり直そうと言ったでしょうけど、私にもそのぐらいの強い確信はなかったので、ずっとあいまいにやってきたんです。


そんな状況をどうやって変えたのですか。

ナ・ヨンソク:「絵描き兄弟」と「出張チャンネル十五夜」のSEVENTEEN編を最後に、次の時期に移りました。「出張十五夜」チームに新たなプロジェクトを任せました。SEVENTEEN編も、反響もとても良かったですし、現場でもSEVENTEENのメンバーたちがとても楽しく、お互いに本当に大事にしているのが見えてとても良かったんですが、ここまでだと思いました。そして今『ソジンの家』を終えて、少し休んでいる制作スタッフがいたんですが、「YouTubeチャンネルをしばらくやろう。再生回数は気にしないで、ただのんびりしたものだから、君たちもそうして」と言ってスタートしたんです。

 

人気コンテンツを中断して、スタッフたちを前面に出したコンテンツを作るというのは、容易い決定ではなかったでしょうに。

ナ・ヨンソク:芸能人は自分の作品もあってファンもいますが、作る人たちは自分たちのコンテンツがありません。常に裏方だった人ですから。私たちのような人にとってコンテンツは、番組を作りながら経験したこと、その時の思い出が一番大きいのではないかと考えて、初のライブ放送を、そういう思い出がたくさんある構成作家のキム・デジュと一緒にしました。でも字幕もなく何もない番組が再生回数100万回を超えるのを見て、この道はすべて間違ってはいなかったと確信をしましたし、他のPDたちも「こういうのが人々は気になっているんだね」と思うようになって、後輩PDたちを呼んでやってみることになりました。他のコンテンツも制作陣が確実に中心を担える人たち、イ・ソジンさんのように「ソジンさん、出演料はないけど、ただ気楽に来て話をして」、そう言える人たちとだけやってみようと思っています。

​Netflixの話題作『サイレン~炎のバトルアイランド~』のイ・ウンギョンPDと構成作家チェ・ジナさん、そしてエッグイズカミングのADのお二人が続いて出演しました。構成作家キム・デジュさんとは逆に、かなり年齢差のある女性スタッフを招待した理由はありますか。

ナ・ヨンソク:キム・デジュが出演したものは、再生回数100万回を出しました。そうしたら以前なら、次にキム・デジュ、ナ・ヨンソクが出て、間に他の誰かが出て150万回出るようにしようとしたと思います。その次には私は絶対芸能人を出演させたでしょうし。私たちはそうやっていつも視聴者に引っ張られていました。でもチムチャクメンさんによると、おもしろくてうまくいくものがあるなら、敢えてでもおもしろくないことをしなくちゃということです。そうしてこそ自分が倒れることなく、バランスが取れると。それが本当に心に響きました。キム・デジュのようなベテラン構成作家が出れば、私との思い出もたくさんあるので、話すこともたくさんあります。そうすれば話題にはなりますが、そればかりやっていたら、後になって落ちるであろう絶壁はとても高いです。経歴の差が大きい人たちとも話をすべきだと思いました。再生回数が減るかもしれませんが、それを当たり前に受け入れてこそ、このチャンネルがより長く続くだろうと思ったんです。

 

若いスタッフたちが新しい話を聞かせてくれましたが。ナ・ヨンソクPDがADたちに「

総合編集を一日遅らせようか」とひと言言ったら、PDが出ていってから数々のできごとが起きるということを自ら話すのは、新しい姿でした。

ナ・ヨンソク:とてもためになりました。管轄するチームが増えると、最年少のADや構成作家たちをしっかり把握するのが難しいんです。それで実際に聞いたら、もっとパッ!と合点がいきました。総合編集が彼らにとってプレッシャーになるのは当然わかっていますが、実はそれまでわからないふりをしていたんです(笑)。直接言葉で聞いたら、彼女たちにとってはかなりストレスだろうなということを、今更のように強く、改めて感じます。最近はずいぶん反省しています。

 

ADたちが出演した回で、番組制作中に「(現場の)状況を見て(撮影内容を)決定する」ことをやめると言っていました。制作しながら現場の状況によって内容を決定することが重要な影響を及ぼしますが、それはご自身の競争力と言える不確定要素に対する判断力を放棄することではないかとは思いませんか。

ナ・ヨンソク:冗談半分、本気半分です。YouTubeなのでその場のおもしろさを考えて、「そういうことはもうやらない」と言ったのもありますが、本当にその気持ちがないわけではありません。それがスタッフたちを苦労させるということもわかっていますし。私はそういう判断をする時、悠々と流れくる長江の波をイメージとして浮かべるんです。それは止めることのできない波です。私たちの次の世代は、現場で状況を見て決めるような、そんな不確定性をものすごく怖がります。もう少し体系化されていて、その中で自分の役割がはっきりしていて、自分が「編集はこのぐらいやって、あとは日常を生きなきゃ」ということができる人生を望んでいます。もちろんおっしゃったように、実際にそこに行って決めなければならない部分までは彼らも当然理解しています。でもYouTubeで言ったことはそのまま100%冗談ではありません。可能であれば決めてあげてから行くべきで、決められない部分は、それがなぜ演出的に必要なのかを共有して、みんながそれは仕方のないことだということがわかっている状態でなければならないんです。

 

運動会を扱ったコンテンツのタイトルが「コミュニケーションの神」でしたが、本当にスタッフたちとのコミュニケーションが重要だと思います。

ナ・ヨンソク:以前はPDと構成作家が、「ここで私たちが出演者たちにわからないように、突然逃げ出したらおもしろそう!」ということを即興で決めたんです。そうしたら他のスタッフたちは「これ、どういうこと?」と言いながら振り回されるんです。それが私には後で「あの時はすごくおもしろかった」と言えるエピソードですが、その決定から疎外されたと思う人もいるかもしれません。今はスタッフももっと増えて、各自任された役割も、ドローンカメラだけを見る人、オーディオだけをチェックする人というように、もっと分化されました。それで重要な決定が組織の毛細血管まで行き渡るのに時間がかかるんです。現場の状況による素早い判断を完全になくすことはできなくても、「この頃のスタッフたちには、こうやって仕事をするのが合っている」ということは事実です。どうしようもないことは仕方ありませんが、問題を減らそうとしています。

 

20年の間たくさんの番組を成功させてきた人の立場から、ライブ放送中ご自身が間違ったところを認めたり、変化を試みるのは難しくありませんでしたか。

ナ・ヨンソク:多くの人たちは私が番組を企画して演出する部分が一番大きな仕事だとお考えになるかもしれませんが、それは時間だけで考えると約30%にしかならないと思います。残りは「あの人のそばにはこういう人がいないといけないから、この人をここから連れてきて組織を作れば、プロジェクトを作るのに良いチームができそうだ」というようなことに、ずっと多くの神経を使います。この仕事は基本的に人間がする仕事ですから。ですので、私たちは予想以上に絶えずこの組織をより良い組織にしようと努力していますし、そのために自分自身も変えなければならないと常に思っています。そういう過程でYouTubeでライブ配信をしていて話題になって、先ほど話した「綱渡り」の綱から落ちるんじゃないかというのは、少し怖いですね。「ナ・ヨンソク、今見たらすっかり面倒くさいおっさんだね」という反応のような。ハハハ。

 

運動会を押し進めながら、「私の夢は真のリーダーです」と言った言葉が思い出されますね。

ナ・ヨンソク:クリエイターは欲張りです。AからZまですべて自分が思う通りにならなければ、どうしようもなくイライラする人。私はそういう傾向がそれでもまだちょっと少ないほうなんですが、それでも仕事をしているとストレスを受けるんです。ですので、以前1年にひと番組を準備している時が一番幸せでした。『1泊2日』をすると、出演者たちとスタッフのことだけをケアすれば、たとえ自分の体はつらくても、幸せに向かって飛んでいくんです。でも私は『1泊2日』をやっている時もリーダーでしたし、これからもリーダーですよね。だからと言って私と一緒に仕事をしているADがずっとADばかりはできないじゃないですか。その人がこの仕事をする目的が、それではないと思いますし。でも私は後輩たちと共同演出という名前でたくさんの番組をやってはいましたが、彼らの要求を聞いてあげることは容易ではありませんでした。聞いてあげるふりをしながら、自分の思い通りにすることが多かったんです。もうこれ以上そうしていたらダメだという時点に来たように思います。私の夢は、独立した良い番組を作るプロフェッショナルチームがいくつかできて、私が必ずしも関与しなくてもうまく回っていくことです。例えるなら、HYBEのマルチレーベルのようなものだと言えるでしょうか(笑)。

 

そうするためにはどのように運営しなければならないでしょうか。

ナ・ヨンソク:昔のようにAからZまで管理することはできないので、核になる部分に関するコンサルティングだけを提供して、それ以外の部分についてはスタッフたちの判断に任せることを考えています。いくつものチームに組織を分けて、私たちは統制力を抑えていっても、彼らが自分たちでできるようにしたいんですが、難しい部分がたくさんあります。彼らもこの仕事をする目的や意味がなければならないじゃないですか。自分でこの業界に入ってきたなら、自分が中心になりたいですよね。ですので、エッグイズカミング内のバラエティチームにあるいくつものチームが、今よりもう少し主体的に回っていく構造を作りたいです。最近そういうことをバックで支援する構造が、YouTubeのようなものだと思いますし。

 

ライブ配信中に、『花よりおじいさん』以降は編集をしていないとおっしゃっていました。それでは今「真のリーダー」として(笑)する最も重要な仕事は何だろうかと思いました。

ナ・ヨンソク:私は今『ピョンピョン地球娯楽室』をやっていますが、反応は悪くないと思うんです。そうしたら私はそれほど気を使いません。基本的にすべきことを除けば、ほぼパク・ヒョニョンPDと構成作家ペ・ギョンスクが自分たちでやっているんです。でもその二人を『ピョンピョン地球娯楽室』チームに配属して、一緒に企画して作るところまでは考えなければならないんです。二人がストレスを受けた時、サポートしてあげられるPDと構成作家もいなければなりませんし。その後で番組がうまくいけば満足で、私が望む「ああ、任せてもよさそうだな」となるんです。私がこの頃一番気を使っているのは、新規プロジェクトです。企画段階で何をするのが合っているのか、うっとうしいぐらいに関わります。そしてその番組を誰がちゃんとできるのか、メインPDと構成作家を決めたら、その下に異なる性格の人をさらにつけて、チームを組んで、出演者を決めて、『ピョンピョン地球娯楽室』のようにうまく回っていくようにしなければなりません。

​「誰と誰をくっつけなきゃ」、「この人はうまくできるだろうか」、「ここに誰をさらに入れようか」。すべて人に関することじゃないですか。一緒に仕事ができそうな人についての基準があるのでしょうか。

ナ・ヨンソク:あるチームを信じて任せる時は、リーダー格3~4人の構造について、ものすごく深く考えるほうです。メインPD、メイン構成作家、その下にセカンドPD、セカンド作家。彼らがどういう人なのかによって、その下のメンバーは決まるんです。そしてそれは数値で決まっているわけではありませんが、長い間一緒に作業をしてみると、その人の性格というものが出てきます。このように分類します。あの人は『新西遊記』タイプの人間なのか、『三食ごはん』タイプの人間なのか。その2つはちょっとちがう方向性じゃないですか。一方はとにかくゲームをやってゲラゲラ笑って、もう一方は傍観的にストーリーを追っていくので。その2つのタイプに分かれますし、人間自体については、基本的に自分の仕事により集中するタイプなのか、周りの状況をよく見るタイプなのかをよく見ます。

 

簡単なようですが、人の性格と仕事のやり方をすべて把握しているのですね。

ナ・ヨンソク:自分の仕事に集中していて、その仕事はうまくできるのに、周りのことをよく見られないこともあります。一方回りをよく見る人が、自分の仕事であまり頭角を現せないこともあるんですが、その人のためにチームが動くことが多いです。そうしたら私たちは、その2つを混ぜるんです。特に『ピョンピョン地球娯楽室』は、いろいろな状況があって必ず成功させなければならない番組でした。そのため私が当時選べる最も強い人を入れたんです。パク・ヒョニョンPDのような。最近演出家としてセンスも良くて、能力もある人。それからその人を能力で補佐できるチーム、情緒的に補佐するチームを一緒に入れるんです。もちろん彼らは、そんなミッションのためにそこに入ったわけではありません。自分がそんな役割だとは知らないでしょう(笑)。

 

その点で『ピョンピョン地球娯楽室』の出演者の構成がおもしろかったです。ナ・ヨンソクPDの作品は、それまでに縁のあった出演者に新たな出演者を組み合わせることが多くありました。『ソジンの家』もそうですし。『ピョンピョン地球娯楽室』は4人全員が初めて出会う出演者で、年齢差もずいぶんある、PDの反対側にいるような人たちですよね。

ナ・ヨンソク:その通りです。『ピョンピョン地球娯楽室』は、言葉でばかりMZ世代、MZ世代と騒ぐのではなく、本当の近頃の世代で、女性出演者たちで行こうと決めました。その後壁にキャスティング候補の名前を約50人貼りました。キャスティング会議をする時いつもする話があるんですが、ここにある名前のうち一つは正解が絶対あります。私たちが選び出せないだけで(笑)。でも『ピョンピョン地球娯楽室』は、本当にうまく選んだんです。正直言って半分は運でした。『ピョンピョン地球娯楽室』の最初の撮影が終わってから、10年分の運をすべて使ったと言ったほどでした。おっしゃるように、私と最も距離の遠い出演陣なんです。まったく縁のない世代なので、中心にはヨンジさんしかいませんでした。ヨンジさんは本当に型破りな人で世代がちがうんですが、ヨンジさんのトーンで行けばここでは軸になれると思いました。そしてみんなが一番予想できなかったキャスティングがMIMIさんでした。

 

どういう点でですか。

ナ・ヨンソク:ヨンジさんはMZ世代の要、最近大人気のアイドルYUJINさん、そういう人たちをまとめるコメディアンのウンジさんも予想できる構成です。一方MIMIさんは、人々に知られている特徴がまだ多くありませんでした。でも私たちはキャスティングをする時、資料調査をとても深く長い時間をかけてします。その過程でそのMIMIという人がYouTubeをやっていたんです。それを見たら、アイドルでありながらも、地に足をつけて現実を生きつつ自分の道を切り開いていこうと考える、彼女の心の持ちようがとてもいいと思いました。そうしたところで、パク・ヒョニョンPDが「私はMIMIさんがいいと思います」と言い、その後にも他の人の口からMIMIさんの話がまた2~3度出たんです。私はお互い何の関連もない人たちが2~3度同じ話をしたら、気持ちがパッとそっちに行きます。ある人とご飯を食べていて、「MIMI、おもしろいじゃないですか」という話を聞いたら、その時はただ笑って終わりますが、家に帰ったら「もう2ポイントだ!」(笑)、そう考えるんです。そうするうちにもう一度出てきたら「これはもう運命だ」となるんですが、MIMIさんをキャスティングした時がそうでした。

 

そうして距離の遠かった出演者たちと、今は少し理解ができていると思いますか。

ナ・ヨンソク:理解は縮まりませんでした(笑)。最初の撮影をしてきたら、もっと理解が難しくなったんです。出演者たちが何かを楽しくうまくやっているというのはわかります。でもどんなメカニズムで流れていくのかはわからないんです。それで最初の撮影後はちょっと混乱したんですが、ADが仮編集したものを試写したところ、そういう部分がすごくたくさん活かされているんです。父と娘が話が通じないような(笑)部分がすごくたくさん使われていて、ちょっと戸惑いました。でもスタッフたちはそれがとてもおもしろいと言うんです。撮影中に私が何かを投げかけたんですが、「何をしょうもないこと言っているんですか。それは別のことでしょ」という反応が返ってくるのは、自分が企画した通りに行かなかったわけなので、編集でカットするポイントだと思っていたんですが、むしろ全部活かされているんです。「そう? じゃ、そうしよう!」となるわけです。『新西遊記』だったら自分の判断にもっと重きを置いていたでしょうが、これはずいぶんちがう番組だと思うので、もっと若い人たちに判断を委ねることが多いです。あの人たちがそう考えるならそうしようと。

​反対に『ソジンの家』は、それまでも一緒にやってきた出演陣にVさんが合流しました。そして労働条件について話しながら、新しい雰囲気を作り出していて、イ・ソジンさんが社長になったことで出演者間の構図が変わりました。同じ設定や一緒の出演者がいても、新たな状況が作られていました。
ナ・ヨンソク:私はそれがとてもおもしろいと思いました。Vさんもバラエティには、オリジナルコンテンツ以外ではレギュラーで出たことがないじゃないですか。でも本当に賢いです。撮影が2~3日過ぎたらすぐに流れを掴んで、どうすればおもしろいか考えて、同時にとても一生懸命やって。それでおっしゃったポイントもとてもたくさん活きていて、これなら充分目新しいものを見せられると思いました。反応も良かったですし。最近あれぐらいの視聴率が出るのは難しいんです。ただ個人的には、既存のフォーマットを繰り返しているという批判があったんですが、その反応についてうなずける部分もあったので、ちょっとへこんでいたりもしました。

食べ物や旅などの普遍的なテーマや、容易に理解できるゲームをしつつ、その中の人たちが変わりながら新たな状況を作るのを見せるのですが、それを繰り返しだとばかり言えるでしょうか。
ナ・ヨンソク:おっしゃるように、私たちはまさにその程度に考えて始めました。同じ食堂番組をやっていますが、ユン・ヨジョン先生のいる番組はあの方のカラーが支配しているんです。イ・ソジンさんが中心にいる番組は、イ・ソジンカラーが支配しているので、そこから来るちがいも明らかにあるでしょうし、Vさんやチェ・ウシクさんは外国に一緒に出かけたのが初めてなので、友人同士で生まれるケミストリーもあるでしょうし。でも私の誤算は、この食堂スタイルの番組が何年もの間ワンアンドオンリーだったので、競争相手がいませんでした。その上、Vさんだけでもビッグカードですし、こんなキャスティングに裏付けされた番組をするのだから、うまくいかないはずがない(笑)番組だと思ったんです。でも昨年から似た番組がたくさん出てきました。視聴者の立場からすれば、ワンアンドオンリーの時は時間をおいてたまにやるので楽しんで観てくださっていたんですが、今はそうではないんです。企画を少し変えるべきタイミングでしたが、私たちは既存のブランドに執着していたので、そういう部分が、ちょっとずれているところがあったんだなと思いました。それでちょっとへこんでいたりもしたんですが、最近はまた「これは私たちが元祖なんだから、もっとリノベーションして、もっとおもしろくしなければ」という意地が出てきました。

おっしゃられた悩みが今のコンテンツ・マーケットの変化とも関係があるように思います。ナ・ヨンソクPDの番組は、誰でもみんな理解できる設定とゲームの中で、出演者のキャラクターや関係を見せるだけに、最大限多くの人たちが普遍的に理解し、好きになれる番組だと言えるでしょう。でも最近のNetflixのようなコンテンツ配信サービスのバラエティは、『サイレン~炎のバトルアイランド~』のように、特定の視聴者に強い没入感をもたらし、「ねえ、あれ観た?」という話が出て、他の人たちにも広がるコンテンツが出てくるじゃないですか。YouTubeはもっと極端に、各自の世界ですし。それほどバラエティ番組が細分化されている状況で、番組の企画についてどうお考えですか。
ナ・ヨンソク:大変なことになったと思います。答えはないとも思いますし。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』という映画を私はまだ観ていませんが、そのタイトルを見て、昨今のコンテンツの世界を語っているようだと思いました。すべてあります。すべての場所に。今、この瞬間に。プラットフォームもとても多くて、コンテンツがすごくたくさんあって。何でもすでに存在していて、昔のように1,000万人単位で何かを観るのではなく、5万人、10万人ずつ皆分かれて観ていますし、これからもそうやって行くでしょう。私たちのようにできる限り多くの人々が観るように作っていた人たちは、考え方を変える必要があるのだと思います。『ソジンの家』はたくさんの人たちが観るべき番組なんです。すべての世代をカバーする出演者たちと、みんなが共感できる平凡なテーマの中で、理解しにくい状況が一つもない話が展開するわけですが、今後はそういうものがだんだん難しくなるんじゃないかと思います。

それほどパイが小さくなっているので、Netflixなどの大型配信サービスの投資以外には答えがあるのだろうかと考えたりもしますね。
ナ・ヨンソク:私たちも探していく過程にあって、『ソジンの家』はこれからもやりますが、もう少しニッチなマーケットを考えるべきかもしれないとは思います。以前はコンテンツ3~4本のうち1本を選んでいたとしたら、今は30本、40本、何百本の中から選ぶんです。車だとしたら、一つの車種で100万台を売るのではなく、いろいろな車種で10万台ずつ売るんです。100万台を売るほうがもっとずっと大きな規模の経済が実現しますが、それでも10万台売れるほうがその車に対するロイヤルティが高くないだろうか、そうするためにはどうすればいいだろう? その人たちだけが好きな、隠れたコードを入れるべきだろうけど、それは何だろうか。そんなことを考えますね。

ですので、エッグイズカミングのスタッフのファンミーティングを台湾で行ったと聞いた時は、興味深かったです。ファンミーティングを海外でするぐらいであれば、何かあるということではないかと思って。
ナ・ヨンソク:最初は私と構成作家のキム・デジュとチェ・ジェヨンと行って、「あの番組を作る時どうでしたか」というような話をしました。でも今回ファンミーティングにちょうど1,000人の方がいらっしゃったんです。でもそれが現場に行って見ると、本当に多く見えます。これが種になって5,000人に増えたりしたら、その時からは本当に何かができそうだと思いました。あ、そう考えたら、韓国でファンミーティングをやってみようかな。

賛成です(笑)。人が来なくてもおもしろいと思いますし。
ナ・ヨンソク:その通りですね(笑)。

以前『サイレン~炎のバトルアイランド~』のPD、構成作家と明け方に桜を見に行かれたと言っていたじゃないですか。その時「君たちがいくらうまくいったところで、結局僕(ナ)だよ」と言ったそうですね(笑)。でも「うまくいったところでナ」のその「ナ」が、ものすごくうまくいきました(笑)。
ナ・ヨンソク:後になってもっとうまくいきましたね。ありがとうございます(笑)

そうやってこの20年の間、韓国のバラエティ番組で最も重要な人物の一人として生きてきましたが、現在までも今日話したことを悩みつつ生きる原動力は何でしょうか。
ナ・ヨンソク:一つ目は個人的な欲でしょうね。ヨンジさんにも先日こんな話をしました。癖になっているからだと。この小さな成功がもたらしてくれる快感が一度中毒になったら、深く悩むことなくずっとそれを求め続けるんです。二つ目はいつもどの時期でも、動機になる目標はあったと思います。私たちの特徴は、5年どころか1年後の計画もあまり立てません。今現在のことを見ています。そうやって20年生きてきました。私にとって今一番大きい悩みは、新規プロジェクトを準備中なんですが、それがうまくいかないといけないんだけどな…と、ずっとそのことばかり考えていて、その後ろにはそこに繋がっている人たちがいるじゃないですか。PDと構成作家たち。その人たちに対する責任感と言うべきでしょうか。彼らもそれを通して人生が一段階飛躍できたらいいじゃないですか。そういうことが最近の私にとってはちょっと大きい意味になっています。私がとても利他的だからではなくて、彼らの飛躍が私の飛躍だということをはっきりと考えています。仕事をするにつれて、そういう考えがだんだん強くなっています。