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文. ソン・フリョン
デザイン. チョン・ユリム
写真. BIGHIT MUSIC

Vの初のソロアルバム『Layover』の先行公開曲「Rainy Days」のミュージック・ビデオで、Vはバゲットに白いペンキをつけ、向き合っている透明の板に絵を描く。一見宇宙人の形のようでもあり、Vに似ているようにも見える絵のように、Vには、瞬間の感情や雰囲気を彼ならではの独特な色彩を盛り込んだイメージで表現できる絵の具がある。Vはその絵の具を通して、想像の中のイメージを写真や絵、言語、演技、そして音楽で描き出す。見て、聴いて、楽しんで、好きなものからインスピレーションを得て、自身の創作物として表現するというV。何でも視覚的イメージで解き明かすレンズを持ったこのビジュアリスト(Visualist)の視線を追ってみた。 

​Jazz 

「ずっと好きでいると、それが増幅していきますし、自分が好きなものがあると、行動するようになりますので。小さい頃、ジャズをよく聴いて育ちましたが、今は僕が大好きで、やりたい音楽がそういう感じのものなんだと思います」。『Weverse Magazine』のインタビューで語っていたように、Vがジャズに対して抱いている愛情は有名だ。映画『上流社会』でビング・クロスビーとルイ・アームストロングが「Now You Has Jazz」を歌うシーンを「人生最高の映像」と言って共有したり、Weverseに「ジャズに感動できることは本当に大きな祝福」という感想を残して、心からの賛辞を贈るほどジャズを愛している。またチェット・ベイカーが好きで、彼の一代記を扱った映画『ボーン・トゥ・ビー・ブルー』を薦めたり、Instagramに「Autumn Leaves」のトランペットのハンドシンク映像をアップしてもおり、『IN THE SOOP BTS ver. シーズン2』ではオンラインでトランペットのレッスンを受ける姿も見せている。Vは『Weverse Magazine』のインタビューで、ルイ・アームストロングのような古典的なジャズ音楽について、「イメージを思い浮かべさせてくれるんです。例えばある曲を聴いた時は、どこかの地域の夜の通りを歩きながら、前にある何かを見るとかいったことをずっと考えさせられます」と話してもいるが、それはジャズがVにインスピレーションを与える方法でもある。「不在からの思念を共感覚的なイメージに描き上げる」音楽をやりたいと言うくらい、Vにとって音楽は視覚的イメージを聴覚的に描き出すことでもあり、ジャズなどの古典音楽は、彼に幼い頃から特有の感性を持たせただけでなく、自身が想像してきた視覚的イメージの源も同然だった。YouTubeチャンネル『W KOREA』のインタビューで明かしているように、初のソロアルバム『Layover』にジャズのムードが反映され、今年のBTS FESTA期間に公開された「Le Jazz de V」ライブクリップで、「It's Beginning to Look a Lot Like Christmas」、「Cheek To Cheek」などのジャズの曲を歌うことになった理由だろう。Vは音楽としてのジャズだけでなく、一つの文化的様式として、ジャズが持つ視覚的な雰囲気を今この時代に自分のやり方で表現する。

Vante

Vが自身の名前(V)とオーストラリアの写真家アンテ・バジム(Ante Badzim)の名前を合わせて、自らつけた別名Vante(ヴァンテ)。Vは自ら撮った写真を共有したり、彼が好きな写真家を紹介しながら、Vanteとして活躍してきた。2019年Vがドイツの写真家ハネス・ベッカー(Hannes Becker)やカナダの写真家カラム・スネイプ(Callum Snape)の作品を薦めると、彼らはハッシュタグ「#photosforvante」を使用して、Vのための写真を共有して応えてもいる。「国籍に関係なくすべての芸術家に連帯を感じていて、そのような連帯が大切だと思い、彼らと共感しながら何かを学ぶという感じがしています」(『ヴォーグ』誌)というVの話のように、彼は国籍、ジャンル、知名度など、芸術を評価する物差しに拘ることなく、自分だけのプリズムで世界の芸術家たちとコミュニケーションする。例えばVは、2018年のワールドツアー中に偶然寄ったアメリカ・ダラスのギャラリーである作家の作品を買い、その作家の手を握り、「あなたの日々が輝かしいものでありますように(May your day shine bright.)」という言葉を残してもいる。写真という趣味から始まったVanteは、自分が好きなアーティストと作品を自由に紹介する過程で、彼が関心を見せるもう一つのジャンルである美術の領域までを包括するペルソナに拡張された。特有の個性が際立つVの絵は、直接カスタマイズして着用したジャケットや、『IN THE SOOP BTS ver. シーズン2』『Run BTS!』BTSインテリア編などのオリジナルコンテンツ、VのInstagramの投稿でも確認できる。今は「by Vante」と言えばどんな感じの作品か連想できるほど、これまでVは「Vante」というペルソナを通して、自身の嗜好をARMYに絶えず共有してきた。去る8月11日に先行公開された「Rainy Days」のミュージック・ビデオで、Vがバゲットに白いペンキをつけて絵を描くシーンからVanteを思い起こす反応が多かった理由だろう。名前の誕生エピソードのように、Vanteの歩みは、本当に好きで他の芸術家たちと気兼ねなくコミュニケーションする過程でインスピレーションを得る、「創作家V」の価値観を明確に見せる。 

  • ©️ BTS Facebook

보라해、I Purple You、紫

「鏡に映った涙の意味は 笑顔に隠された僕の色 Blue & Grey」。アルバム『BE』に収録されたVの自作曲「Blue & Grey」でVは自身の感情を色に例えて表現する。『Weverse Magazine』のインタビューで、Vは制作過程を回想し、「今自分が思うこの時間は全部グレーだ、そして自分はあまりにもブルーなんだ」と感じた瞬間の感情を伝えようとした曲だと説明してもいる。VはRMとの共同制作曲「4 O’CLOCK」で、「月の光の中ではすべての世界がブルー」で、君の歌声が「赤い朝」を連れてくると言い、時間の流れを色の対比を通して描写したかと思うと、今回のソロアルバムの収録曲「Blue」の歌詞でも「Green, yellow, red, blue」という色の名前を引用して、聴く人の状態を表現する素材にする。感情のパレットを持っている人かのように、色を活用して感情を形象化するVの独特なセンスは、自分の音楽だけでなく、彼が使用する日常的な表現にも滲み出ている。BTSの代表的な象徴の一つである「ボラヘ」もまたそのようなVの発想から始まった言葉だ。去る2016年のファンミーティング「MUSTER」で、Vは観客席のARMYたちがBTSのペンライトであるARMY BOMBに紫色のビニールを被せてイベントを行った光景を見て、虹の最後の色である紫(ボラ)色は、最後まで「相手を信じてお互いに愛し合おう」という意味だと言い、「ボラヘ」という表現を新たに作った。「ボラヘ」はARMYとBTSの間の愛を指すもう一つの表現として定着し、ハングルだけでなく「I Purple You」、「紫」など、世界各国の紫色を意味する言葉が、Vが加えた新たな意味として使われ始めた。デビュー10周年を記念してソウルのあちこちを紫色に染めるほど、ARMYとBTSの間の言語を超え、より多くの人々が共感する言語になった「ボラヘ」の始まりには、固有の視線で瞬間を捉え、それを自身の色彩と言語で表現するVの観点があった。

@thv 

現在Vは、韓国の男性芸能人の中で最も多い約6,122万人(2023年9月5日現在)のInstagramのフォロワーを保有しており、アカウント開設当時、最短時間である43分で100万、4時間52分で1,000万フォロワーを達成してギネス記録まで打ち立てたほど、世界で最も人気のあるインフルエンサーの一人だ。インフルエンサー・マーケティング企業「Lefty」によると、昨年Vがファッションウィーク期間にInstagramにアップした、セリーヌ公式アカウントをタグづけしたポストは、1,200万ドルのEMV(Earned Media Value、メディア価値)を記録し、ファッションウィーク全体で1ポスト当たりの最高金額を記録したほどだ。セリーヌに続きカルティエのアンバサダーに抜擢されたVのInstagramでは、男性ソロ歌手としてはエルトン・ジョン以来2番目にイギリスのファッションマガジン『ポップマガジン』の表紙を飾るなど、文字通りアイコニックなセレブの人生を垣間見ることができる。しかしVはとてつもなく多くの人々の視線が集まるこのチャンネルで、人間キム・テヒョンとしての日常もまた合わせて見せる。ジーンズに下げたキャラクター「モラン」のキーホルダー、路上でJUNG KOOKと肩を組んだままお菓子の入ったビニール袋を口にくわえている瞬間、お供え物の膳の前で「願いごとをする」愛犬ヨンタンの姿など、ささやかで親しみのある日常のかけらにも、VのInstagramのフィードで出合うことができる。またVにとってInstagramは、彼がいつも「親しい友だち」と表現しているARMYとのコミュニケーション手段でもある。Vはストーリーに、パリのモンマルトルの街角の画家が自分の似顔絵を描く様子と作品を共有した後、韓国入国時に空港を訪れたファンに似顔絵をプレゼントした。「ただ僕が好きなものを載せようと思いました。そこはあくまでも僕の色を見せるアカウントですし、わざわざ他人の視線に合わせる必要はないと思うので」。『Weverse Magazine』のインタビューでのVの言葉通り、Vが好きな瞬間がひと所に集まった彼のInstagramには、世界的なスターとしての華やかな人生と、一人の20代の青年の活気溢れる愉快な日常が共存する。そういう意味でVのアカウント「@thv」は、1ページで見られる彼の人生の要約だとも言えるだろう。

Actor
先行公開された今回のソロアルバムの収録曲のミュージック・ビデオで、Vはまったく異なる演技の仕方を見せる。「Love Me Again」のミュージック・ビデオで、Vはライブ公演の瞬間を映したような映像の中に一人立って、まなざしの微妙な揺れと視線の処理だけで、切なげな感情を伝える。一方「Rainy Days」のミュージック・ビデオでは、落ち着いて静的な雰囲気の、日常的な演技を見せ、「Blue」のミュージック・ビデオのティーザーでは、急いで廊下を歩いて行き、車のハンドルを握るなど、誰かを急いで探しているような緊張感を作り出す。振り返ってみると、過去のVは「花様年華 on stage:prologue」で演技経験が皆無だった状況で、表現しにくい複雑な感情の流れをリードしていく人物であり、「Spring Day」のミュージック・ビデオの導入部で一番最初に登場して、クローズアップショットだけで曲が持つ特有の叙情的な情緒をまなざしにより表現したメンバーだった。Vは『BEYOND THE STORY ビヨンド・ザ・ストーリー:10-YEAR RECORD OF BTS』で、『花様年華』の活動当時、「あの時の僕にとってはコリン・ファースがロールモデルでした。彼が醸し出す雰囲気がとても好きで、僕もそういう雰囲気をまといたいと思ったんです」と語っている。Vはジャズ、写真、美術からインスピレーションを得る彼のやり方同様、映画の中の俳優を見ながら、ミュージック・ビデオで、またはステージの上で自分がどう演技すればいいかを考える。『Weverse Magazine』のインタビューで、Vは「Butter」の準備をしている時、ハイティーン映画やミュージカルをたくさん観て、映画『クライ・ベイビー』のイメージを活かそうと努力したと明かしてもいる。そして「第64回グラミー賞」で本格的な「Butter」のステージを前にして、オリヴィア・ロドリゴに囁くシーンを即興で演出したりもしている。Vは俳優と作品から自分が行う演技のインスピレーションを得て、ミュージック・ビデオやステージごとにそれぞれ異なる自身のキャラクターを表現する、自分自身に対する演出家だ。

Vintage

Vはアナログなものが好きだ。Vは何度も自身が撮ったフィルム写真をSNSに共有しており、フィルム写真がひと際好きな理由に、フィルム特有のモノトーンの雰囲気を挙げている。ひと頃ベレー帽やハンチング帽、ダブルジャケット、ブラウンのトートバッグなど、ビンテージのムードが際立つアイテムを私服ファッションに好んで活用してもいた。クラシックでビンテージな雰囲気を好むVの嗜好は、彼がビジュアル・コンセプトの企画に主導的に参加した作品で特に際立っている。「どこに行こうとまたクラシックに戻ってくると思うんです」。BTSの『Special 8 Photo-Folio』写真集プロジェクトの「Me, Myself, and V ‘Veautiful Days’」の撮影スケッチ映像で、Vは古典的なムード、モノクロの感性、中世の時代の雰囲気が好きなので、クラシックなコンセプトを企画することになったと話し、そのプロジェクトの企画過程を収めたプロダクション・フィルムでは、自然光の撮影でもビンテージの要素を強調してほしいと提案したり、昔の1980年代の映画の雰囲気を具現化しようとしたと説明している。古典のモノクロ映画を連想させる「Blue」のミュージック・ビデオのティーザーの演出や、「Rainy Days」のミュージック・ビデオのビンテージな質感の効果、「Love Me Again」のミュージック・ビデオに登場するブラウン管のモニターなどのレトロな小道具など、今まで公開された『Layover』の収録曲のミュージック・ビデオにもVの嗜好が如実に反映されており、それを通してVの音楽が持つ特徴的な情緒の一つである恋しさと寂しさの感情を最大限にして伝える。

Visualist
「僕はミュージック・ビデオや写真集で想像のイメージを作り出した時、大きな達成感と喜びを感じるようです」。Vが『W KOREA』のインタビューで語ったことは、彼の初のソロアルバム『Layover』のプロモーション過程で、全体の収録曲のミュージック・ビデオを制作して、コンセプト・フォトを4回に渡り公開することになった理由を説明している。彼は2021年「V’s BE-hind ‘Full’ Story」のインタビューで、自分が描く未来の音楽についての質問に、「今自分が何をしていて、どう感じていて、どんな人生を生きてるか。そんなことを率直に表現」したいと答えている。「僕をよく表していると思います。これがキム・テヒョンであって、こういうのが好きで」。VがWeverse LIVEで明かしたように、今回のアルバムのコンセプト・フォトは、メイクなしに自然な姿で撮影に臨み、ADORのミン・ヒジン統括プロデューサーが「Vさん、明日時間ある? ちょっと出てきて」と言って即興で制作した作品だ。そういう意味で『Layover』は、それまでVが一貫して見せてきた美的嗜好の集合体であり、ミン・ヒジンプロデューサーの表現のように、「Vの華やかさよりはその裏側の淡泊さに焦点」を置いた作品だ。「映画のOSTを聴いてその映画のイメージが思い浮かぶように、ARMYがこの歌を聴いて何かを目にしなくても自ずと想像できたらと思いました」というVの話のように、彼はミュージシャンであると同時にビジュアリスト(Visualist)と表現できるほど、自身の音楽を視覚的に解き明かす人でもある。だからこそ『Layover』は、Vがこれまで好きなことを経験して思い浮かべていた無数のイメージを集め、創造した新たなVの世界だ。「Rainy Days」のミュージック・ビデオでVが透明な板に描いた絵が、彼の姿と重なって見えるアングルのように。