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ファン・ソノプ(ポピュラー音楽評論家)
写真BAD HOP Official Website

去る2月19日、日本の音楽シーンに刻まれる記念碑的な事件があった。すなわち、ヒップホップクルーBAD HOPがそのジャンルの単一アーティストとしては初めて、東京ドームで単独ライブを開催したことだ。彼らは2014年、T-Pablow、YZERRを中心に結成され、出身地である川崎でのワイルドな日常を、トラップやシカゴドリルといったトレンディなサウンドで描き出し、急速に10〜20代を中心にその勢力を拡大していった。バンドシーンにおけるシティポップのリバイバルの流れと『高校生RAP選手権』などのサバイバル番組が、大衆とブラックミュージックの間の距離感を一気に縮めた2010年代中盤から後半。彼らはその流れに乗って、ヒップホップが若い世代の音楽として定着するのに大きな影響を与えた。そんな彼らがその日5万人の観客の前で壮絶にその活動に終止符を打った。まるで漫画『ONE PIECE』のゴール・D・ロジャーの最後の瞬間を連想させる、新時代の到来を自ら宣言する締めくくりだった。

日本では特にヒップホップやラップミュージックが力を発揮できないというのも、もはや昔の話だ。新進気鋭のラッパーたちはストリーミング・チャートの上位圏で活発にバトンタッチしているところで、最近デビューするバンドはブラックミュージックをベースにしていることが多くなった。そのような傾向は、ソロミュージシャンたちの活躍も見逃せないが、それぞれのアイデンティティを自由に発揮するクルーたちの役割が絶対的だったと言っても過言ではないだろう。前述のBAD HOPやKANDYTOWN、YENTOWN、梅田サイファーなど。彼らはそれぞれ異なる個性、パフォーマンスを通して大衆の隙にあっという間に入り込み、自分たちだけの勢力を構築した。そんな中、昨年末と今年の初めにKANDYTOWNとBAD HOPが相次いで解散を宣言し、集団から個人メインに活動の重心を移すと同時に、フェスティバルの開催が以前より活発に行われるなど、今年に入り日本のヒップホップは新たな局面を迎えている。

ただ、ライブ会場の収容人数の拡大や音源市場での宣伝にもかかわらず、そのイメージは専ら大衆的だと見るには無理があることも事実だ。このジャンルがいつもそうであるように、ターゲットが限定されており、楽しむ人だけが楽しむという印象を与えるからかもしれない。そのため数多くのスターが存在しているにもかかわらず、その認知度が広い世代にまんべんなく広がることは少ないように感じられる。そんな状況だからこそ、彼らの活躍はより一層格別だ。ポップスとの絶妙な融合と神がかったようなステージを通して、より多くの人々にラップミュージックの楽しさを届けている、DJ松永とR-指定からなる2人組ユニットCreepy Nutsのことだ。

彼らは前述の「ヒップホップ」というジャンルの正統性を強調する人たちとは異なり、よりポピュラーなアプローチの仕方で敷居を下げ、世代を問わない支持者を取り込んでいるチームだ。彼らのヒット曲の一つ「のびしろ」は代表的で、バンドサウンドをベースにした軽快な曲調の上に、雰囲気を盛り上げるラップが心地良く乗せられ、聴く人の気持ちを高揚させる。「堕天」の場合はどうだろう。ホーンセッションとピアノを積極的に活用すると同時に、リズム感たっぷりのR-指定のパフォーマンスはまるでミュージカルを連想させる。そのように「かっこよさ」と「ユニークさ」よりは「親しみやすさ」と「楽しさ」を目指しており、タイアップもまた活発に展開すると同時に、ロック/音楽フェスティバルでも歓迎されるなど、人々との接点を最大限に作り出すことに力を注いでいる。そうしてキャリアをしっかり積み重ねてきたおかげで、彼らの単独ライブは今やホールからアリーナツアーへのアップグレードを控えている状況だ。

2013年に結成され、4年でメジャーデビューを果たした彼ら一人一人を細かく見てみると、基本的にその実力が並大抵のものではないということがわかる。DJ松永は「DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2019」に日本代表として出場し優勝した経歴があり、R-指定は先に述べた梅田サイファー所属で、日本の代表的なフリースタイルラップ・コンテストの「ULTIMATE MC BATTLE」全国大会で3連覇を達成した前代未聞の経歴を持つ。特にYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で見せた圧倒的なラップが韓国でもショート動画で拡散され、大きな話題を呼んだほど。それこそ誰にも引けを取らない最強デュオという単語が似合うような構成だ。

最近の他の追随を許さない「Bling-Bang-Bang-Born」の人気は、特有の大衆に馴染みやすいアプローチ方法がいろいろな要因と相まって、大きなシナジー効果を生んだ事例と言えるだろう。テレビアニメ『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』の主題歌としてタイアップしたこの曲は、ショートフォーム動画を中心に展開中の「BBBBダンス」チャレンジと相まって、今年最高のヒット曲の一つになる勢いだ。この文章を書いている時点でビルボード・ジャパンの総合チャートであるジャパンHOT 100チャートで11週連続1位、海外人気の指標とされるビルボード・グローバル・ジャパン・ソングスチャート(日本を除く)でも長い間1位を維持している。強烈な色調が印象的なオープニング映像もまた、公開1か月でYouTube再生回数8,700万回余りを記録し、順調に伸びている。昨年Netflixなどのコンテンツ配信サービスに乗ってグローバルヒットを成し遂げたYOASOBIの「アイドル」を連想させる、全世界的なブームであることが確認できる。

ある意味、一層拡大したヒップホップとラップミュージックの影響力を新たなポップスとして定着させようとする彼らの努力が、きちんと実を結んだと言えるだろう。アニメの主題歌ではなかなか見られないジャージークラブサウンドの果敢な起用は、それがチーム自体の力量と今までのキャリアに裏打ちされているからこそ可能なことでもあった。さらにコンテンツ配信サービスを通して一層大きくなった映像作品の影響力に、ショートフォーム動画のチャレンジを加え、その拡散を最大限にしようとする日本のレーベルの戦略的な動きもまた見られる。そのようにこのジャンルにおいて新たな可能性を見せているのが、まさに「Bling-Bang-Bang-Born」のヒットだということは誰もが同意することだ。

一方ではAwichの活躍も目を引く。ここ数年間目覚ましい成長を遂げてきた結果、コーチェラ・バレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバルの88rising Futuresのステージに立つと同時に、今年の「フジロックフェスティバル」初日のサブ・ヘッドライナーの座を手にした彼女だ。同じYENTOWN所属で常に高いクオリティのビートを提供してきたChaki Zuluの指揮の下、苦難の時代を経てヒップホップシーンの女王に君臨するまでの人生をそのまま溶かし込んだドラマチックな物語と、堂々とした態度と優しさが共存する特有のカリスマ、そこに出身地沖縄の地域色をそのままに溶かし込んだ音楽における差別化まで。特に高い完成度で大衆音楽シーンを包括し、他に類を見ない完成度を誇る2枚のスタジオアルバム『Queendom』(2022)と『THE UNION』(2023)は、彼女の飛躍を促す決定打だった。さらに同時代の女性ラッパーたちをひと所に集め、強烈なシナジー効果を見せた「Bad Bitch 美学」を通して、男性中心のシーンに少なからず亀裂を入れてもいる。昨年11月には2万人が入場可能なKアリーナ横浜での公演を成功させるなど、クロスオーバーを目指すCreepy Nutsと異なり、ヒップホップというアイデンティティにどっぷりと浸かって成し遂げた成果だという点が、彼女ならではの独自性を際立たせている。

日本のヒップホップは今も休む間もなく躍進中だ。独特な歌声とフロウで勝負すると同時に、韓国のJay Park、Sik-Kともコラボした経歴を持つJP THE WAVY、韓国と日本を行き来し自分だけの音楽スタイルをしっかりと築きつつあるちゃんみな、若い世代が求めるムードを明確に提示する¥ellow Bucks、10代特有の不安定な情緒を強いアプローチで伝えるLEX、ビビッドな色合いのポップ/ラップミュージックを武器に最近絶大な支持を得ているLANAまで。同時にSELF MADE、STARKIDSのような新たなクルーやグループも加勢する。多様な方向性を持つ風雲児たちが春秋戦国時代を連想させる激戦地に続々と集まってきている状態だ。

そのような盛り上がりとエネルギーは、韓国にも直接的な影響を及ぼすことは明らかだ。いずれにせよ欧米圏の最新トレンドに共通して影響を受けているという点で、アーティストや大衆は、知らず知らずのうちに共通分母を持つことになるのは確実だからだ。すでに数年前から両国のアーティストたちは活発な協力関係を構築中であり、日本の最大のヒップホップ・フェスティバルの一つ「Go-AheadZ」は多数の韓国アーティストをラインナップに載せてもいる。韓国にもAwichちゃんみなといったアーティストたちがすでに訪れてもおり、過去最高に日本のアーティストの韓国訪問が活発化している時期であるため、今後その訪問の頻度はさらに増えると思われる。ある意味お互いの市場で新たな可能性を探っている状況だ。果たして今後日本のヒップホップの浮上は、列島のメインストリームにどのような衝撃波を与えるのか。さらに両国の交流はどのような方向に展開していくのか。新たに描かれる地形図が思いのほか気になるばかりだ。

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