
『チョン・ヒウォンの低速老化』
キム・リウン:速くて便利で効率的だ。デリバリーアプリを数回クリックするだけで、誰でも30分以内に「フファ(「フードファイター」の略で、食べ物を食べたいだけ食べる行為)」をすることができる。疲れた一日の終わりに、刺激的で脂っこいものを見つけて体にたっぷり流し込むのはどれほど効率的な快楽か。何よりその特権は、サプリを何粒か飲み込むだけで簡単に守れるかもしれない。健康のために体に良い食べ物を食べて、よく寝て、よく動かなければならないというあまりにも普遍的な事実は、過労やストレス、ドーパミンを刺激するさまざまな誘惑の中で後回しになりがちだ。しかし、「ゆっくりと年を取りたいなら」? ソウル峨山病院高齢者内科のチョン・ヒウォン教授が韓国に巻き起こした「低速老化」ブームは、皆のの普遍的な欲望に気づかせ、すべての加速のサイクルに立ち向かい始めた。
コンテンツもまた速く、便利で、効率的でなければならない。見る人の視線を惹きつけられなければ、メディアの生態系で生き残ることはできない。チョン・ヒウォン教授がこれまで著書と放送活動はもちろん、Xで多くの人に低速老化献立「昼食メニューのおすすめ」まで発信しながら、活発にコミュニケーションを取ってきた理由だろう。『チョン・ヒウォンの低速老化』チャンネルには、「プルダッククリーム平打ち春雨 vs ただ飢える」のように、興味深いサムネイルが上がっており、チャンネル登録者はアップされた動画に「超加工食品を食べて超加速で太るスピードで走ってきました」といったコメントを載せる。そのようにYouTubeに馴染むやり方で、低速老化レシピはもちろん、「節食の概念をきちんと知る」、「間違った脂肪の知識総まとめ」のように、いくつもの論文や研究調査をもとに通説を正すさまざまなコンテンツが提供されている。
もちろん、すべての知識には選別が必要だ。さまざまな情報や主張が共存するメディア環境では、根拠に基づいた観点の提示すら、以前よりも慎重なことになっている。健康の基準も、それぞれの体の状態も異なるため、選択と実践は個人の役目だ。だからこそ、チョン・ヒウォン教授が「どのような根拠で医学、健康の知識を信じるべきか」で、研究段階別の理解と専門家の勧告形成過程を説明し、正しい医学知識の判断基準を提示したのは象徴的だ。食べ物も知識も急速に消費される加速の時代に必要なものは、もしかしたらそのように知識をしっかり咀嚼するためのガイドではないだろうか。まるでレンズ豆がたっぷり入った雑穀米をできるだけおいしく食べる方法を教えてくれるレシピのように。

『マリア』(日本未公開)
ペ・ドンミ(映画専門誌『シネ21』記者):伝説となったオペラ歌手マリア・カラスは、4年半もの間舞台に立っていない。声が以前のようには出ず、不眠症に悩まされると精神安定剤を乱用しながら日々を過ごしている。幻覚にまで悩まされる彼女は、1時間後には放送局の人たちがインタビューのために家に来ると言うが、執事はインタビューそのものが妄想だとわかっている。ただカラスだけが真実を知らないまま、記者が自分を訪ねてきて、マイクを差し出すと思っている。そして自分が歩んできた道や音楽に関する話をし始める。虚像の中の記者に向かって、もしかしたら自分自身に向かって、そして観客に向かって。
『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』、『スペンサー ダイアナの決意』を演出したパブロ・ラライン監督は、『マリア』でオペラの女帝カラスが亡くなる前の最後の一週間を、現実とフィクションを織り交ぜて形作る。実在の人物カラスは、晩年精神安定剤マンドラックスを服用していたが、映画の中のカラスは、マンドラックスを乱用するのはもちろん、マンドラックスという名前の記者が自分をインタビューしていると思い込んでいる。ラライン監督は前作と同様に、一人の人物の内面を描写するために現実とフィクションを織り交ぜ、非線形的に物語を進行させる。観客によっては、映画の頻繁な視点移動とカメラの画面の変化を落ち着かないと感じるかもしれないが、それは一人の人の内面に漂う過去の断片、想念、衝動などをイメージで表現するための戦略と見ることもできる。そのように、一見すると断片化したように見える「マリア」を一つに繋ぎ合わせる存在がいる。それがカラス役の女優アンジェリーナ・ジョリーだ。ジョリーは、取り返しがつかないほど悪化していくが、音楽に限ってはある境地に達した歌姫の自信満々の姿をみごとに体現している。自分のアルバムは完璧過ぎるので聴かないと怒り出す姿や、夢にまで見た公演がキャンセルされて観られなかったと言いながら近づいてくるファンを追い払うシーンは、全盛期の頃舞台を掌握していたカラスの堂々とした姿と重なって見える。映画『マリア』は、カリスマ的なオペラ歌手と彼女を表現する女優の周波数が合った作品だ。

DAY6 3RD WORLD TOUR「FOREVER YOUNG」FINAL in SEOUL
キム・ヒョジン(ポピュラー音楽コラムニスト):楽曲を自ら書き歌うアーティストが同世代である場合に享受できる特権がある。アーティストと一緒に人生の段階を歩んでいく気分を味わえること。DAY6は私にそんな特権を与えてくれたアーティストの一組だ。20代前半の不器用な恋愛が終わった頃、「Congratulations」で感情を振り払い、自分自身が嫌いになっていた頃に聞こえてきた「hurt road」や「Marathon」は、一日一日を耐えさせてくれる燃料になった。ようやく生きていくおもしろさが少しずつわかるようになったと思った頃に出合った「Welcome to the Show」は、私にとって人生への賛歌のように聞こえた。時々音楽が、世の中に響くアーティストの心臓の鼓動のように感じられる時がある。そういう意味で、DAY6の音楽は私の人生の合間合間、ぴったりの場所に入り込み、私と同じスピードで脈打つもう一つの心臓になった。
DAY6の音楽は、私にとってそうだったように、ある人にとってももう一つの心臓となり、止まりかけた人生のエンジンを再び動かす鼓動にもなる。それ故、ステージの上の彼らが歌う歌詞を一緒に歌いながら、同じスピードで脈打つ心臓を共有したいのは当然のことだ。ひとり言のように思われていた歌が皆のための歌になる時、時期に関係なくいつも心に触れていた歌が、はっきりと今この瞬間をより鮮明に刻む響きになる時。その時、その響き、その気分を感じるために、多くの人々が公演会場を訪れる。それが昨年9月から始まったワールドツアー「FOREVER YOUNG」が盛況のまま続けられた理由であり、再び戻ってきた韓国で9万人の観客を一気に集めることができた理由だ。
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