
現実の境界を崩すような作品で私たちに馴染みのある、スペイン・シュルレアリスムの巨匠「サルバドール・ダリ(Salvador Dali)」の国内初の大規模回顧展が、来る11月東大門デザインプラザにて開催される。サルバドール・ダリ財団との共催で進められた今回の展示は、多方面でそのインスピレーションを表出したダリの芸術世界と足跡を紹介する。展示観覧に先立ち、馴染みがありながらも時には難解に見えるダリに近づく時間を持とうと思う。
作品だけでなく、トレードマークの口ひげと強烈な表情がすぐに思い浮かぶサルバドール・ダリは、彼の個性的な姿と同じぐらい人並みはずれた考えと行動で成長期を過ごした。自らを天才と自負し、自身の人生をも芸術だと考えていたダリは、マドリード王立美術学校でも学ぶことがないという理由で、授業に不誠実な態度をとり退学させられてもいる。だがすぐに開いた個展は盛況で、作家として順調にスタートを切った。その後パリに向かったダリは、同郷だったジョアン・ミロの紹介でアンドレ・ブルトン、ルネ・マグリット、マックス・エルンストなど、シュルレアリスムの芸術家たちと交流し、名声を築く。マルクス主義を拒否し、シュルレアリスムのグループと決別した以降にも、自身がすなわちシュルレアリスムだと言い、独自の作品世界を歩んでいくことになる。アメリカに活動拠点を移した後にも大いに人気を得て、宗教画、映画、執筆、彫刻など、多方面で優れた才能を発揮し、活発な芸術活動を行った。
多くの分野で足跡を残したサルバドール・ダリだが、彼を代表するのはやはりシュルレアリスムの作品だろう。自分だけのシュルレアリスムを確立しようとしたダリは、自身の制作方法を「パラノイア的批判的方法」と称し、それが精神錯乱を連想させる非理性的な認識の表現法だと話す。さまざまなテーマで夢のイメージを編集し、彼が持つ強迫観念と幻想が合わさり、無意識と現実が混在した新たな作品を創り出した。
彼の代表作として評価される『記憶の固執』では、絵画的言語で私たちにシュルレアリスムを魅力的に伝える。溶け落ちるような時計で有名なこの作品は、単純に作家の想像力だけを表現しているのではなく、画面の対象にテーマと物の象徴性を見つけることにも多くの意味を持たせている。硬い物である時計がぐにゃぐにゃしたチーズのような形態で表現されている部分に、彼がよく使用していた二重影像(Double Image)技法を見ることができる。二重影像とは夢や幻覚に由来するもので、一つの物が別の物と重なって見えたり、別の物に見える妄想を表現しており、多重の効果を誘導する方法だ。ダリは作品でこの効果をよく使用し、リアルで具体的な対象が表現されていても、非現実的に見えるように描いた。その他にも時計がかかっているオリーブの木は、本来平和と希望を象徴するが立ち枯れており、時計にたかっている蟻は、死と腐敗の象徴として、作品に時間の有限性と死を内包させる。また他にも無意識とパラノイアの多様な精神世界が合わさったようなキャンバスは、フロイト的潜在意識を想起させ、さまざまな分野で関心の対象として多くの人気を集めた。それだけでなくダリは、純粋芸術での成功を超え、映画監督ルイス・ブニュエルと『アンダルシアの犬』、アルフレッド・ヒッチコックと『白い恐怖』でコラボレーションをしており、誰もがよく知っているチュッパチャプスのロゴを手がけるなど、視覚領域のあらゆる方面で自身の作品を残した。
そのように自身の人生もまた芸術の一部と考えていたダリは、芸術に対する確固たる信念と天才性で、誰もが認める巨匠として記憶されている。それゆえ、今回の展示で作品を通して接するサルバドール・ダリの夢と世界の幻想は、時代を超えて今も私たちに芸術的インスピレーションを吹き込んでくれる魅力的な経験として迫ってくるだろう。
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© Interpark ticket
トリビア
ジークムント・フロイト(Sigmund Freud)
オーストリアの生理学者で精神分析学の創始者。無意識理論を提示し、多くの理論家たちに思想的影響を与えた。彼は、人間の意識の裏には膨大な無意識の領域が存在し、人間の行為が無意識の影響を大きく受けていると主張した。夢の分析と心理学実験を通して、無意識の存在とその様相を証明しようとした。
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